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前ページ次ページ確率世界のヴァリエール 「騎士様、お待たせいたしました」 花屋の娘がにこやかに小さな薔薇の花束を差し出した。 ジュリア。 イシス。 ラブリーピンク。 健気に咲いた桃色の花たちに彼女の髪を思い出す。 「きっとお喜びになりますよ」 「そうだと良いが。 しばらく放ったらかしだったものでね」 そう言うとワルドは花屋の娘につられて笑った。 花束を抱えながら考える。 (やはり指輪の方が良かったか? 仮にもフィアンセなんだし。 いや、再会していきなりは重すぎか。 それに、今日はこれもあるしな) アンリエッタからの預かり物、懐の「始祖の祈祷書」に手を置く。 (ここはじっくりと時間をかけて昔の距離を取り戻すのが 最重要課題だ。 それにしても、あんなに、、、) 心の中で感涙にむせび拳を握る。 (あんなに成長しないでいてくれたとは!! あの時に思い余って手を出さなくて本当に良かった。 ナイス俺! ナイス判断! ナイス合法ロリ!! いや、いかんいかんぞ、落ち着け俺、落ち着けジャン・ジャック。 お前は世界をこの手に掴む男なんだ! そう、マニアもうらやむ、、、) 花屋の前で両手を広げ天を仰ぐ。 「禁断の世界を!」 ※この物語はフィクションです。日本の法律では、同意があっても 13歳未満の者と性行為をすれば強姦罪に問われ、18歳未満の者 と性行為をすれば都道府県の淫行処罰条例に該当します。 確率世界のヴァリエール - Cats out of a Box - 第九話 「どどど何処よここっ!?」 ルイズは周りを見回した。 何も見えない。 目が開いているのかすら定かでない。 まるで突然に盲いたかの様な、明るくも暗くも無い灰色の世界。 そこに自分と使い魔との輪郭だけがおぼろげに浮かんでいる。 否。 そう感じたものを見えていると思い込んでいるだけなのかもしれない。 宙に浮いているのか、どこかに立っているのか、それすら判らない。 ただ、繋いだ左手だけが、はかなくも現実感を保っている。 光も無い。 闇も無い。 時間も距離も、天地すらも、無い。 確率世界の箱の外。 ここは。 「ここは、『虚無の地平』だ、、、」 「虚無の、地平ぃ!?」 「うん、ドクはそう呼んでたよ。 向こうでも何度か来ちゃった事があるんだ。 あちこち飛び回ってると、ごくたまーに、ここに出ちゃうんだよねー。 あ、ドクってのは少佐と同じで、向こうの世界の知り合いね。 ドクが言うには、ここは世界の外なんだろうって。 指定座標の範囲の外。 テクスチャの向こう側。 何処でも無い場所。 『存在することを許されなかったもの』たちの逝き着く果てだって」 (あ、私だ) シュレディンガーの言葉に、懐かしい感情が不意に蘇る。 懐かしい恐怖、そして懐かしい孤独。 絶望の先触れたち。 彼が召喚されるまでは、彼の替わりに毎夜の枕を共にした、古い顔馴染み。 ずくり、とルイズの胸がうずく。 ちがう、もうこんな感情は必要ない。 ぶんぶんとかぶりを振ってそれらを頭の中から追い払う。 「ソレってつまりはあんたが『跳ぶ』のに失敗しちゃったって事? 何やってんのよもう! 今日はワルド様が魔法の稽古を付けに学院まで来て下さる日なのに!」 「へー、ワルドとそんな事やってんの?」 「当ったり前よ! ワルド様みたく、こう、格好良く風のスペルを!」 「え? 使えるようになったの!?」 「なれるように努力してんの!」 「なーんだ」 「何だとはなに、よ、、、」 突然感じた圧迫感に、ルイズは自分の頭の上を見上げる。 「なに、これ、、、」 そこにあったのは、船だった。 認知可能な空間を覆い尽くすほどの膨大な質量に、ルイズは距離感を失う。 いや、そもそもここには距離などありはしないのか。 その途方も無い存在感に飲み込まれそうになる意識を何とか立て直すと、 その船以外にもさまざまな漂流物がある事に気が付いた。 大小の円盤。 1 4 9比の四角柱。 様々な人型の何か。 ひび割れた偏四角多面体。 「シュレ、これって、、、」 「うん、たぶんね。 ルイズ、この前観てたスターウォーズの中にワープってあったでしょ? あれは作り事のお話だけど、あれと似たようなものだと思う。 ここに漂ってるのは、『ここでは無いどこか』に行こうとして行けず、 『ここ』でも『そこ』でもない、この『世界の外』に来ちゃったものたちなんだよ。 あるいは、行こうとしたんじゃなく、初めから誰かに追放されたのか」 様々な世界、様々な時間、様々な座標からこの『虚無の地平』に流れ着いた漂流物たち。 その存在の空洞が心を蝕む。 いや、共感しているのか? この漂流物たちに。 世界に存在を許される場所など無かった、あの日の自分が。 甘やかな負の感情がとろりと心を包み始める。 ゆっくり、ゆっくりと。 「シュレ、もう帰ろ? ここ、何だか怖い」 自分の隣の灰色の影に震える声をかけた。 「うん、そだね。 な~んか嫌な気配もするし」 ============================== 目の前に見慣れた自室の光景が戻る。 「ぶはぁ~」 ルイズはため息をつきながら自分のベッドに倒れこんだ。 「うあ゛あ゛~、気持ち悪かった」 「だいじょぶ? ルイズ」 シュレディンガーが水差しからグラスに水を注いでルイズに渡す。 震える両手でグラスを掴むと、喉を鳴らして水を飲む。 「あー、まだ手足がじんじんする。 頭も。 今度からちゃんとしなさいよね。 あんな所行くのもう二度と御免だわ」 「ハイハイ。 今日は魔法の稽古お休みする?」 「あ! そうだったわ! 休むわけ無いでしょ、広場行って来る!!」 ガバッと起き上がり慌しく部屋を出て行くルイズを見送る。 「いってらっしゃ~い」 外を見ると日が暮れかけている。 少し早いが今日の任務はもう終わり。 さてどうしようかと考えていると部屋のドアが開いた。 「ん? どしたの、ルイズ。 何か忘れ物?」 こわばった顔でルイズが答えた。 「あなた…誰?」 ルイズがワルドと待ち合わせの約束をした広場。 学院のはずれにあり訪れる生徒もめったに居はしなかったが、 そのぶん魔法の特訓にはうってつけの場所だ。 ルイズは息を切らしながら周りを見渡したが、ワルドの姿は無い。 遅れ過ぎたか? と思ったが約束の時間をいくらも過ぎては居ない筈だ。 「やだ。 ワルド様帰っちゃったなんて事無いわよね? でも、グリフォンもいないし、、、」 不安げにきょろきょろと辺りを見回すルイズの背後から声がした。 「ああ、いたいた。 ルイズ」 笑顔で振り向いたルイズの顔が引きつった。 「あんた、、、誰?」 シュレディンガーは困惑していた。 「え? 何言ってんの、ルイズ」 きょとんとした顔で近づくシュレディンガーにルイズが杖を抜く。 「近寄らないで! 猫耳の…亜人? 何者なの!? あなた」 「え~? 冗談にしてもソレは無いんじゃないの~? 自分の使い魔に向かってさー」 「私の使い魔? 冗談はやめて。 私の使い魔はサイト一人よ」 「サイト?」 「そうよ、ヒラガ・サイト。 もしかして、さっきすれ違った私そっくりな女もあなたの仲間? 何を企んでるか知らないけど、正直に言った方が身のためよ!」 杖を突きつけるルイズにシュレディンガーは首をかしげる。 「アレー? コレってもしかして、、、」 。。 ゚○゚ 「はあ? パラ、何?」 シュレディンガーの説明に杖を突きつけたままルイズが問い返す。 「だーかーら、パラレルワールド。 どうも話を聞いてるとルイズが使い魔召喚した時の分岐なのかな? つまり僕ともうひとりのルイズは、こっちとは別の世界から来たの。 その、ヒラガ・サイト?を呼んだんじゃなくて、僕を呼んだ世界から」 「そんなの信じられるわけ無いでしょ!」 「うん、言ってる僕も半信半疑。 でもそうとしか考えらんないしなー。 あ、じゃあ、使い魔じゃ無いと知らないような事いったら信じる? えーとねー、ルイズは夜寝てる時にー、よく 【自主検閲】 する、とか」 「はああ!? ななな何言ってんのよアンタ!!」 「あとはねー、 【自主検閲】 にホクロが二つ並んでる、とかー。 【自主検閲】 が結構好き、とか?」 「ななななな何でアンタがそんな事知ってんのよ!? ササ、サイトにも秘密にしてるのに!!」 「信じた?」 「ししし信じるも何も」 「んー、じゃあ!」 顔を真っ赤にしてうろたえるルイズに飛びつき、キスをする。 ============================== 「おお~? 『跳べ』た!」 学院を遥かに見下ろす雲の上で、ルイズは逆さまになりながら絶叫した。 「きゃぁああああぁぁぁ~~~~っっ??!!」 その横でシュレディンガーが笑う。 「あはは、新鮮新鮮」 ============================== 「まあとりあえず、あなたの話は信じるわ」 学院の屋根の上。 夕日を眺めながらルイズはため息をつく。 「もし私に何か危害を加えようって言うんだったら、 今の力で何処でも好きな所にさらっていけた筈だし」 「ありがと。 でも魔法って不思議だねー。 別の世界のルイズだから契約も別なのかと思ったけど」 そう言いながら手袋を外して右手のルーンを眺める。 「あら、あなたのルーンって右手なの? 文字も違うみたいだし」 「うん。 ぶぃ、ヴィンダールヴって言ったかな? サイトは違うの?」 「サイトは左手よ、ガンダールヴなの。 どんな武器も使いこなせちゃうのよ! 凄いでしょ。 その力で何度も私を助けてくれたの」 ニコニコと自分の使い魔のことを語る。 「ふーん、サイトの事好きなんだ? ルイズ」 「ななな何言ってんのよあんなヤツ! あああ、あれは単なる私の使い魔であって、すす、好きとか!」 くすくすとシュレディンガーが笑う。 「ふふ、良かった。 こっちの世界でもルイズが使い魔と仲良しで」 「そそそうね、まあ、仲は、悪くは、無いわね… あなたの世界はどうなのよ?」 「もちろん仲良し!」 夕日を浴びてゆっくりと伸びをする。 「色々あったけどね。 ここは平和そうで良かった」 「こっちの世界も色々あったわよ。 アルビオンのウェールズ皇太子が無くなったり、 ワルドが裏切り者だったり、 レコン・キスタが攻めてきたり… 言っとくけど今だって戦時下なのよ? そっちは? 平和?」 「僕らの世界も似たようなもんかなー。 さて」 立ち上がったシュレディンガーの右手がルイズの目にとまる。 「シュレディンガー? それ…」 「ん?」 右手のルーンがパチパチと静かに放電し、その指先は透けていた。 「何それ……、それもあなたの力なの?」 「いや、、、これは、、」 その時、階下からの悲鳴が二人に届いた。 「この声って……、キュルケ!?」 ============================== 「どうしたの? キュルケ!」 キュルケの部屋に飛び込んだ二人が目にしたのは、 慌てふためくキュルケと、二本足で立ち上がったサラマンダーだった。 「フフ、フレイムがいきなり…」 『まあま、驚かんとここへ座んなさいな、キュルケ様』 トカゲの口で流暢にしゃべりながらフレイムがぺたぺたと器用に歩く。 『前々から言いたかったんよ、キュルケ様。 あんたさんには貞操観念っちゅうもんが無さ過ぎる』 「こっちの世界の使い魔ってみんなこうなの?」 たずねるシュレディンガーへ、ルイズは無言でかぶりを振る。 「ななな…」 キュルケがあわあわと声をあげた時、シュレディンガーの右手が 再びパリパリと放電し光を放った。 「きゃ~~っ!」 廊下の向こうで次々と悲鳴が響く。 「わ、私のロビンがー!?」 『ソバカス、縦ロールと揃って、なぜメガネをかけんのだ!!』 「ど、どうしたんだいヴェルダンデ!?」 『宝石うめえ』 「ぎゃー、ぼ、僕のクヴァーシルがー!」 『お前洗ってない犬の臭いがすんだよ』 『た、大変なのねお姉さま! 使い魔のみんなが人間の言葉を喋っているのね!?』 「わあたいへん、しるふぃーどまでしゃべってるー」 「な、何コレ? 何が起こってるの!?」 巻き起こる悲鳴と怒号にルイズまでもおろおろと周りを見回す。 「コレって、、、」 シュレディンガーが自分の右手で放電を続けるルーンを見つめる。 「暴走、してるんだ、、、」 よく見ると、指先どころか手首の先まで透けて見えてきている。 「うわっ、どんどん透けてきてるや。 コレってやっぱりアレだよねー、 パラレルもののSFなんかによくあるやつ」 自分の手を眺めながらシュレディンガーが苦笑いする。 「いたぁ!! シュレ~っ!!!」 聞き覚えのある叫び声が廊下を突進してくる。 「ななな何か変よシュレ! タバサはヘンな本読んでないし、 ギーシュがモンモランシーの尻に敷かれてるし、 変な服着た男が私の使い魔だって言い張るし!!」 「嫌だ、シュレディンガー。 あなたの世界の私って、こんなにやかましいの?」 怪訝そうな顔をしながらルイズがルイズをにらむ。 「え? あ? わ、私がいる!? なな、、何よコレ!! どどどどーいう、、、」 後からルイズを追いかけてきたパーカー姿の少年が叫ぶ。 「な、何だよこれ? ルイズが二人!?」 「ああもう、うるさーい!!」 パニックを起こすルイズ達をルイズが怒鳴りつけた。 。。 ゚○゚ 「はあ? パラ、何?」 シュレディンガーの説明に頭から?マークを出してルイズが問い返す。 「だーかーら、パラレルワールド。 ルイズ、あ、僕の世界のルイズの方ね。 えーとえーと、あ、この前『ザ・ワン』観てたでしょ」 「ジェット・リー!! ニーハオ!」 「そうそれ! つまりあれとおんなじって事。 この世界は僕たちの世界と似てるけどちょっと違う世界。 多分ルイズが使い魔召喚をした所が分岐点になってて、 サイトが呼ばれたのがこっちの世界、 僕が呼ばれたのが僕らの世界なんだ、きっと」 (まあそれにしちゃ色々違うみたいだけど、、、) それに関しては混乱を避けるため、あえて口にしない。 キュルケがこめかみを揉みながら顔をしかめる。 「何となくは判ったけど。 判んないけど判ったって事で。 で、使い魔たちが喋りだしたのはどういう事なの?」 「それは、このルーンが暴走してるんだと思う」 「シュレ、その手!?」 シュレディンガーが差し出した右腕はすでにひじの辺りまでが 透き通っており、手の甲があったと思われる空間に ルーンだけが放電しながら浮かんでいた。 「何ソレ!? 大丈夫なのシュレ!」 「そー言うルイズだって、ほら」 シュレディンガーに釣られて皆が足元に目をやる。 シュレディンガーの世界のルイズだけ、すねから下が透けていた。 「ちょ! な! 何よコレ!!」 「多分この世界が、僕らを『無かったこと』にしようとしてるんだ」 「無かった事ぉ!?」 「そう。 この世界に来てすぐ、僕はこのルーンに関わる力の使い方をした。 こっちの世界のルイズと『跳んだ』んだ」 「はぁ? 何やってんのよシュレ!」 「んでー、力は上手く働いたんだけど、それで混乱が発生したんだろーね。 多分この世界のどこかにもヴィンダールヴはいるはずでしょ? でも僕がこのルーンを介した力の使い方をしちゃったから、 この世界にヴィンダールヴが二人いることになっちゃった。 で、こっちの世界のルイズにも僕の力をつかっちゃったから、 ヴィンダールヴを使い魔に持つルイズも二人いることになっちゃった。 結果、ヴィンダールヴの力は暴走。 困っちゃった『この世界』は一個しかないはずなのに二個になっちゃった ものの内、 後から来た方を『無かった事』にしようとしてるんだ、多分」 「そそそ、それってつまり、、、」 「そ。 僕とルイズ」 「ななな何やっちゃってくれてんのよ!! マズいわヤバいわジョーダンじゃないわ! それってつまりどうなんのよ!?」 「もう少しするとこの世界は綺麗さっぱり元通り」 「私たちは!?」 「ここには居られないからどこでも無い場所に行く」 「げ。 それってさっきの」 「『虚無の地平』」 「どどどどーすんのよ! あんな所にまた行くなんて真っ平よ!」 「簡単簡単。 僕らが元の世界に帰れば良いだけだよ」 「あーそっか、そりゃそうね。 そういうことは早く言いなさいよ」 シュレディンガーの世界のルイズが安堵のため息をつく。 。。 ゚○゚ 「ふう。 せっかく会えたのに残念だけど……、 引き止める訳にも、また会いましょうって訳にもいかなそうね」 サイトの横でこちらの世界のルイズが寂しげに微笑む。 「うん。 でもありがと、ルイズ。 サイトとお幸せにねー」 「ななな何言ってんのよシュレディンガー! ここここのバカ犬はただの使い魔で…!」 「あははっ。 そんじゃ、バイバーイ」 見送る皆に手を振ると、シュレディンガーは自分の主人に口付けた。 ============================== 目の前に見慣れた自室の光景が戻る。 「ぶはぁ~」 ルイズはため息をつきながら自分のベッドに倒れこんだ。 「ありゃー、もうすっかり日が暮れてるねー。 うわ、外見てルイズ。 すっごい霧!」 「何か判んないけど疲れ果てたわ。 そーいや向こうの私と随分仲よさげだったわね」 「えー何? 自分自身に嫉妬ってちょっとナルシストなんじゃなーい?」 「なーに言っちゃってんのよこのバカ猫。 さ、お風呂でも、、、」 廊下へのドアを開けたルイズが固まる。 「、、、あ、あんた、、誰?」 「アナタノ使イ魔DEATH」 ルイズの目の前には筋骨隆々の大男が立っていた。 手には血まみれの大鉈、下半身には黒ずんだ皮製の腰巻、 肩の上には頭の代わりに真っ赤で巨大な鋼鉄製の三角錐が乗っている。 その後ろにはマネキンのような質感の顔の無いナース達が並び、 血だまりの上で暗黒舞踏を舞い踊る。 突然大音量のサイレンが鳴り響き、壁がめりめりと燃え散って その中から赤さびた鉄骨の骨組みが顔を出す。 いつの間にかテーブルに置かれたラジオはガリガリとノイズを撒き散らし、 建物のあちこちから悲鳴と絶叫と断末魔と狂ったような笑い声が響く。 大男が部屋の中に入ってこようとして頭をぶつけた。 ごきん 「ア痛」 「ちょ、ルルル、ルイズ!?」 「ここ違う! ここも違う!! ここでもナーイ!!!」 ============================== 目の前に見慣れた自室の光景が戻る。 「ぶはぁ~」 ルイズはため息をつきながら自分のベッドに倒れこもうとして止めた。 ベッドの上に緑色にぬらぬらと輝くご立派なモノが反り返っていたからだ。 「おおルイズ、戻ったか」 「ギャーッ、ルイズの使い魔がご立派様にー!!」「シバブー!」 「つつつ次いくわよシュレ!!」 ============================== 「ギャーッ、右手がドリルのゴーレムがー!!」「ウミウシ超好き」 「次! 次ッ!!」 ============================== 「ギャーッ、オブリ門からデイドラ王子が次々と!!」「バイアズーラ!」 「何処だここー!!」 ============================== 「ギャーッ、ルイズのコスが真っ黒な蜘蛛スーツに!!」「G○FTだけはガチ」 「お前誰だー!!」 ============================== 「ギャーッ、ルイズの使い魔が黒塗りのトランザムにー!!」「やあマイケル」 「シエスタがエロいー!!」 ============================== 「ギァワーッ!」 ============================== 「ムホー!」 ============================== 「え?」「あ?」 ============================== 「お?」 ============================== 「」 ============================== 目の前に見慣れた自室の光景が戻る。 「ぶはぁーっ! ぶはぁーっ!」 ルイズは息を切らしながらも警戒しつつ辺りを見回す。 「こ、こぉ、今度はどうよ?」 ドアノブが回りびくりと固まる二人の前に、赤いベビードール姿の キュルケが顔を出す。 「なーにやってんのよルイズ、ドタバタと。 あらシュレちゃんもおかえり。 今日はもう終わり?」 「やたっ! ルイズ! やっと戻ってこれたみたい!」 「いや、シュレ。 喜ぶのはまだ早いわ。 念には念をよ」 ルイズがブラウスのボタンをプチプチと外し、 シャツをたくし上げて薄い胸を露わにする。 「ほっ!」 「ル、ルイズ!? やっと覚悟を決めてくれたのねっ!!」 「イルアースデルッ!」 「うう、酷いわルイズ、、、 乙女心をもてあそぶなんて」 ドリフの爆発ヘアーになったキュルケが床の上で涙に暮れる。 「アンタのは乙女心じゃなくて漢女心でしょ」 冷たく言い放つとルイズはそのままベッドに倒れこむ。 「はぁ~、もうクタクタだわ。 お風呂も明日でいいわ。 寝る! お休み!」 そのまま寝息を立て始めたルイズを見ながら、 キュルケとシュレディンガーは困り顔で微笑みあった。 。。 ゚○゚ 「、、、遅いな、ルイズ、、、」 広場に立ち尽くすワルドの抱えた花束を、夜風が散らした。 前ページ次ページ確率世界のヴァリエール
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国籍:オーストリア ラピド・ウィーン(05~09)→ボルシア・ドルトムント(09~) オーストリアのラピド・ウィーンに所属する選手。入団当初はMFだったが、その気性の強さと荒さを買われて(?)FWにコンバート。当時の監督がいわゆる「ゼロトップ」的発想を進めていたこともあり、前線で得点を取るのではなく高い位置から相手DFに噛みついて味方の攻め上がりを促す、という部分では高い効果があったようだが、ゴールは挙げられない日々が続いており「ゼロのルイズ」と呼ばれるようになっていた。 持ち味はその気性と瞬間のスピード。また執念深いマンマークも得意で、体格を考えなければ守備的なポジションの方が向いているかもしれない。 代表選手のエレオノール・ラヴァリエール、カトレア・ラヴァリエールらとは姉妹の関係に当たり、ルイズは末っ子。3姉妹の長女であるエレオノールとはチームメートでもあり、背が低いことから「ちびルイズ」と呼ばれ続けており頭が上がらない。 愛国心が強いためか、海外に出る選手を快く思っておらず特にライズのことは一方的に嫌っている。 ダイヤモンドカップ最終予選で初ゴールを挙げ、「ゼロのルイズ」の汚名を返上。その後ゴールを量産し、翌年にオーストリアブンデスリーガで得点王を獲りブレイク。さらに翌年にはボルシア・ドルトムントに移籍、ステップアップを果たす。 09-10女子ドイツブンデスリーガでも得点ランクトップを独走中。 元ネタ的には「ルイズ・フランソワーズ・ル・ブラン・ド・ラ・ヴァリエール」が正しい名前なのだが、長すぎるため中の人が大幅に端折ってしまった(笑)
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ラクス・クライン・ル・ブラン・ド・ラ・ヴァリエール ヴァリエール家当主にして、3姉妹の長女。36歳 3女のルイズとは、20ほど年齢が離れており、ルイズ出産後母親が亡くなったため、彼女が育てたようなものである。 そのため、やる夫のこと以外ではルイズが頭が上がらない人物。 通り名最短授与記録保持者で、それはいまだに破られていない。 特殊体質『異常肺活量』lv2持ち。 16歳の時に冒険者となるため家出、「私の名前はラクス・クライン、歌って戦える冒険者を目指してますわー。」と宣言してやる夫のいるパーティに入る。 当初は自分の実力も知らず、役立たずであったが、1週間で支援スキルを習得、2か月後には歌唱系のスキルをほとんど習得、半年後には音撃を覚えて中型モンスターの頭を吹っ飛ばすという異例の成長を遂げ、パーティの要となった。
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[名前]ルイズ・フランソワーズ・ル・ブラン・ド・ラ・ヴァリエール [出典]ゼロの使い魔 [声優]釘宮理恵(参加者内ではシャナが同じ声優) [性別]女 [年齢]16 [一人称]わたし [二人称]呼び捨て、あんた トリステイン魔法学院の女子寮に住む2年生。ヴァリエール公爵家の三女である。 両親、2人の姉ともに優れた魔法使いでありながら、物語序盤ではルイズ自身はまったく魔法が使えないという特徴を持っていた。 物語が進み、彼女自身が持つ魔法の系統が明らかになると使えるようになる。 最初は自分が召喚した平賀才人を平民だからと犬扱いしていたが、何度も助けられたりしているうちに1人前の人間扱いしていくと共に彼に惹かれていく。 [能力] 魔法。ただし序盤はどんな魔法を使っても必ず失敗してしまう。失敗とは、魔法が爆発すること。 [性格] 良くいえば誇り高く、悪くいえば負けず嫌いの意地っ張り。 原作序盤では魔法が使えないことをコンプレックスとしており、その反動からか勉学に励む努力家である。 典型的なツンデレであり、ツンデレの代表格でもある。 以下、多ジャンルバトルロワイアルにおけるネタバレを含む +開示する ルイズ・フランソワーズ・ル・ブラン・ド・ラ・ヴァリエールの本ロワにおける動向 登場話 008 登場話数 1 スタンス 対主催 初期支給品 秘密バッグ@ヴィオラートのアトリエ、破壊の杖@ゼロの使い魔、エリキシル剤×2@ヴィオラートのアトリエ キャラとの関係 キャラ名 状態 呼び方 二人称 関係・認識 関係話 平賀才人 仲間 サイト アンタ 使い魔 未遭遇 タバサ 中立or仲間 タバサ 級友 未遭遇 後藤 敵対 殺害される 008 踏破地域 1 2 3 4 5 6 7 8 9 10 A B C D E F G H I J F-10地図にない民家の前
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前ページ次ページ確率世界のヴァリエール 「聞いたか? また戦艦が沈められたってさ」 「もう7隻目だろ? アルビオンの貴族派どもも大変だな」 朝のアルヴィーズの食堂。 未来の政治家達が楽しげに語り合っている。 貴族にとって戦争と醜聞はこの上ない娯楽。 対岸の火事となれば尚更だ。 「しかし王党派も現金なもんだよな、一時はニューカッスルを枕に 一族郎党覚悟を決めたと思ってたけど」 「それくらいの生き意地の汚さがなけりゃ、王族なんぞ務まるまいさ」 「王さえ居れば国は成り立つ。 朕は国家なり、ってやつか」 「ははは、それさそれ」 笑いあうひよこ達をよそに、ルイズはシュレディンガーのタイを整える。 「一人だからって粗相しないのよ?」 「信頼無いなあー、大丈夫だって」 「あらシュレちゃん、今日もおでかけ?」 「うんキュルケ、行って来るね!」 「この前みたくルーン無くしたりしないのよ?」 「うるさいなあもうルイズってば。 大丈夫!」 念を押す様言うと、「右手」の手袋をはずして光り輝くルーンを見せる。 「んじゃ、夕食には戻るね~」 ============================== 「ふう、ホントに大丈夫かしら」 席を立つ二人に事情通気取りのひよこ達が自慢げに話しかける。 「ああ、ルイズにキュルケ、君達は知ってるかい? アルビオン貴族派の船を沈めて回ってる謎のメイジ。 その名も、 『虚無の魔女』 の話を」 確率世界のヴァリエール - Cats in a Box - 第八話 アルビオン大陸の中央に広がる森林地帯。 その中でもひときわ高い大木の梢にシュレディンガーは居た。 「さて、今日はこの辺りでも攻めてみますか」 晴れ渡る空、気持ちのいい朝の風が頬をなでる。 ポケットから地図を広げ、おやつ用に持って来ていた ビスケットを思わずぽりぽりとかじる。 「ええと、こっちが北でー、」 幹に片手で掴まり、身を乗り出したシュレディンガーの頭が 突然、バカンッ! と爆ぜ飛んだ。 バサバサと音を立てて落ちてきた首なし死体を見下ろして、 白いスーツ姿の男は甘くて渋い子安ボイスで小首をかしげた。 「ん? どこかで見たよう、な」 ============================== 「ひっどいなあ、ルークったら!! ひっさしぶりに再会した身内の頭を挨拶もなしに吹っ飛ばすなんて!」 シュレディンガーがぷりぷりと怒りながら獣道を歩く。 「すまんな。 ここいらに住むオーク鬼とやらの仲間かと思った。 ま、頭を吹っ飛ばしたのがお前で良かった」 「ちょ、何ソレー!」 前を行く男に食ってかかる。 森を歩くというのに真っ白いスーツに真っ白いコート、腰元で括られた 長い金髪を揺らしながら、木漏れ日を避けて森の中を優雅に歩く。 「で、お前はこんな所で何をしてるんだ?」 「僕? 僕はご主人様がこの国で戦争をすることになってね、その斥候さ」 「ハッ、こんな異世界くんだりまでやって来てもまだ戦争、戦争か。 やっぱりお前は少佐殿のお気に入りだっただけの事はある。 お前もあの方と同じ、どうしようもない戦争狂(ウォーモンガー)だな」 「そう言うルークは何やってんのさ」 「俺か? 俺はな、さっき言ったろ」 スーツの内から取り出した銃をシュレディンガーに構える。 ドンッッ。 シュレディンガーの後ろで豚の頭をした怪物がどさりと倒れる。 「単なる狩りだ」 硝煙を吐くソードオフ加工のM1ガーランドの銃口で眼鏡を上げた。 「ひどいやルーク、こんなブサイクを僕と間違えたって?」 2メイルを超す巨体を見下ろし、不満げにぼやく。 「やかましい所なんぞソックリだ」 奇声を上げて二人を囲むオーク鬼の群れを見回し、 ルークは懐からもう一丁、M1ガーランドを取り出した。 舞を舞うかの如く、軽やかにルークがその腕を振るうたびに 両手に持った自動小銃がオーク鬼の頭を次々と射抜いていく。 「ふう、こんなものか?」 十を超える死体に囲まれた二人の足にに地響きが伝わってくる。 メキメキと音を立てて倒れる木々の向こうから現れたのは、 身の丈5メイルを優に超す3匹の巨人だった。 「うっはあー、ラスボス登場!」 打ち込まれる銃弾をものともせず雄たけびを上げるトロール鬼に、 ルークは呆れ顔で銃をしまう。 「ライフル弾なぞ足止めにもならんか。 やれやれ、素晴らしいね」 真っ白いスーツの一点に、黒いしみが浮かぶ。 じわりと広がったそのしみは、輪郭をゆがませゆっくりと膨れ上がる。 「あーっ、ソレ! ズッルいんだ~!」 シュレディンガーがクスクスと笑った。 「ふん、「こちら側」に来る時に引きちぎってやった。 俺はこいつの腹の中にずっと居たんだぞ? これくらいはあって当然の役得、だ!」 ガチガチと牙を噛み鳴らしつつルークの体からあふれ出た黒く巨大な塊は、 矢の様に解き放たれるなりトロール鬼の胸から上を食いちぎり、 臓物を森の下生えにぶちまけた。 「全部は喰うなよ、『黒犬獣(ブラックドッグ)バスカヴィル』。 私の『領民』にも加えておきたいんでな」 片手にナイフを構えたルークの姿がにじみ、かき消えた。 再びの静寂に包まれた森の中、死体と臓物の中に立つルークの足元から 闇よりも濃く黒い影が意思持つ触手のように広がっていく。 「はは、誰かさんみた~い」 高みの見物を決め込んでいたシュレディンガーが枝の上から笑う。 オーク鬼の、トロール鬼の血が、臓物が、ゆっくりと影に呑まれていく。 「そうだとも。 『あの方』と始めてお会いした時の事を思いだすと、恥じ入らんばかりだ。 今ならば判る。 私を紛い物と知った時の、『あの方』の絶望と憤りがな。 『死の河』と一つになって、やっと私は吸血鬼の何たるかを知った」 何もかもが影に呑まれ、その影もルークの中に消えてなくなる。 「今ならば、ククッ! 『あの方』にも少しは満足頂けるだろうさ」 ルークが牙を見せてぎちりと笑った。 。。 ゚○゚ 木漏れ日の中、二人並んで川のほとりを歩く。 川を挟んだ森の外には麦畑が広がる。 「ルーク様~!」 橋を渡る二人に、いかにも田舎育ちといった風の娘が駆け寄って来る。 「ルーク様、これを。 畑で取れた初物です」 おずおずと籠に山ほど入ったトマトを差し出す。 「ありがとう。 テファが喜ぶ」 その答えに少し表情を曇らせながらも、意を決した様に向き直る。 「あ、あの! ルーク様さえ良ければ私の血を、、 私、殿方ともまだ、ごにょごにょ、、ですし、」 「それは駄目だといったろう? だが、気持ちだけは貰っておこう」 娘の額に口付けると、顔を茹で上がらせてへたり込む娘を置いて 籠を持ち道を行く。 道を行くたびに農作業をする娘達が手を止め、黄色い声を上げる。 「へ~、モッテモテじゃない」 「何度か今日の様な化物退治をしているうちにな。 人間なんてのは現金なものさ」 「そればっかりじゃなさそうだけど~?」 娘の幾人かは、明らかな嫉妬の目をシュレディンガーに向けていた。 村落に近づいた頃、腰の曲がった老人が声をかけてきた。 「おお、ルーク殿! いかがでございましたじゃろか?」 「おおかた貴族派の脱走兵だろう。 当分は心配あるまいさ」 「さようでございますか! これで村の衆も枕を高くして眠れましょう! 本当に、本当にお礼のしようもございませぬ事じゃ!」 「気にするな、村長。 こちらも随分と世話になっている」 村長がなおも礼を述べようとした時、畑の中から一人の女性が顔を出した。 流れるような金髪に切れ長の耳を持つその女性が、嬉しげに声をかける。 「ルークさん、帰っていらしたんですか!」 「ウエストウッドの子供達も一緒か。 ただいま、ティファニア」 。。 ゚○゚ 「へー、いいなあルークってば。 こーんな美人のエルフさんがご主人様なんて」 先ほどの村からさらに離れた森の中、ウエストウッドの孤児院で 子供達と一緒に昼食のテーブルを囲む。 「さっき言ったろう? 別に使い魔の契約は結んで無い。 一日数滴の血と引き換えに用心棒をやっているだけだ」 話を聞かずにシュレディンガーが愚痴る。 「それに引き換えボクのご主人様なんてさ~、 短気でわがままで甘えん坊で皮肉屋で、そりゃ困ったもんだよ」 「何だそれは。 自己紹介のつもりか?」 ルークに軽くいなされて、子供達とティファニアがくすくすと笑った。 食事を終え、庭のカウチでティファニアの入れたミルクティーをすする。 ティファニアは洗濯物を干し、子供達は遠くで遊んでいる。 「にしても随分とキャラ変わったんじゃない? ルーク」 「お前や少佐殿と一緒にするな。 俺は元々フェミニストの平和主義者だ、快楽殺人者じゃあ無い。 俺が興味があるのは自分の持つこの「力」、ただそれだけだ」 ぬけぬけと言い放つ。 「それにな、ティファニアの血は美味い。 今までの誰とも比べ物にもならん程な。 金の卵を産む鶏の腹を裂くなんぞ、阿呆のやることだ」 「おっぱいも大きいしねー」 「それは別にどうでもいい」 本当にどうでもよさそうにミルクティーに口を付ける。 「えー。 じゃあルークってばこっちの方なの?」 シュレディンガーが半ズボンの裾をちらりとめくると ごぼり、とルークのミルクティーがあふれた。 無言で立ち上がったルークの元へ、先ほどの村娘が走り寄って来た。 「た、大変です、ルーク様! 村が、、村が!!」 † 森のはずれの丘の上から、村から立ち昇る幾筋もの煙が見える。 「ルークさん、あれ!」 ティファニアが指差した先、村の中央にある広場には 貴族派の傭兵と思われる一団が陣取り、村人を集め座らせていた。 「ふん、この国も随分とガラが悪くなってきたものだ」 丘を降りようとするルークを、シュレディンガーが引き止める。 「ちょい待ち! アレってー、」 手をかざして目を凝らした先には、一人の黒ずくめの女性がいた。 「あの方は確か、数日前に村に来たシスターです!」 ティファニアの声に、シュレディンガーはにんまりと笑う。 「もうちょっとだけさ、様子を見てみない?」 「お、おやめください!」 聖職者風の衣装をまとい、眼鏡をかけた黒髪の女性が 座らされた村人の前に立ち、兵隊達の前に進み出る。 手には長く大きな布包みを抱え込んでいる。 「あ、あなた達もお困りなのでしょうが、 暴力は何も生み出しません!」 怯えながらも、きっぱりと言い放つ。 「ほう、有難いね。 こんな所で説法が聞けるとは」 周りの男たちがげらげらと笑う。 「お、お許しくだされ、兵隊さま方! こちらは旅のお方で、何もご存知で無いんですじゃ!」 村長がよたよたと進み出て、女性をかばう。 「わしらが何をしたというのです! 税も納め、男衆の徴兵にも応じ、貴族派のかたがたに 歯向かうようなまねは、何一つ行っておりませんじゃ! なぜ、村の家に火を放つようなむごい真似をなさるのか!」 涙ながらに訴える老人を、隊長風の男が蹴り飛ばす。 「村長さん!」 老人に駆け寄る女性を無視し、男は辺りを見回す。 「王党派の連中を匿っている、との通報があってな」 「な、何を馬鹿なことを! 国王様がおられるのはずっと北のニューカッスルのはずじゃ!」 「ジジイの癖に随分と情勢に詳しいな。 こりゃあますます怪しいぜ。 おい、残りの家にも火を放って、王党派どもをあぶり出せ!」 「そ、そんな!」 「やめて、やめてください!」 なおも立ちふさがろうとする女性の髪を鷲掴み顔を向ける。 「おいシスター様よ、どこの田舎宗教かはしらねえが、、、 ここじゃ異端は火あぶりだぜ? お前もそうされてえのか?」 『ああもう、面倒くせえなあ、由美子。 とっとと相棒に替わってこのゴロツキどもをブチのめしちまえよ』 突然のガチャついた声に隊長が女性の顔面を殴り飛ばす。 「今言ったやつは誰だ! まあいい、どのみち王党派を匿う連中への 見せしめに、村を二つ三つ焼いておけとのお達しだ。 年寄りどもは全員殺せ! 女どもは犯して殺せ! 誰一人として生かして逃すなよ!」 歓声を上げる兵達をよそに、隊長は渋い顔で木箱に腰を下ろす。 「腐れ仕事はいっつも俺たちの役回りだ、正規軍の糞ったれめ」 倒れて気を失った女性の抱え込んだ布包みから、カチカチと声が鳴る。 『あーあ、虎の尾っぽぉ踏みやがった』 「きゃああ!!」 「オイ、暴れんじゃねえ、殺されから犯されてえか!」 乱暴に村娘を引っ張るその手が突然に千切れ飛ぶ。 「え?」 混乱しつぶやく首がゴロリと転がり落ちた。 『おいおい、俺の出番は無しかよ、相棒』 左手でぼやく布包みを無視し、女性は右手の日本刀の血を払う。 「相棒って呼ぶなって言ったろ、なまくら。 アタシをそう呼んでいいのは一人だけだ」 言いながら気だるそうに頭を傾けゴキリ、と首の関節を鳴らす。 「な、て、てめえ! さっきの女か?!」 隊長がガタリと箱から立ち上がり剣を抜く。 その声に聖職者服を着た女性は、歯を見せて笑いながら振り向く。 「我らが唯一絶対の神の教えを、田舎宗教だと? ほざくなよ、糞異世界の糞異教徒の糞外道共奴が!! 神罰だ! くれてやるっ!!!」 頭を無くして血を撒き散らしながら倒れる傭兵隊長を気にも留めず、 仁王立ちのまま周りの傭兵達をゆっくりと見下ろし、唇を舐める。 「さあて。 お次はだれが地獄に落ちる?」 「この、アマァ!」 背後から飛んできた火球を左手の布包みで背中越しに受ける。 「何ぃ? ま、魔法が、消された?!」 『悪ぃね、ウチの相棒は熱いのが苦手でね』 女の背中でカチカチと声が響く。 布が燃え散り、中から身の丈ほどもある幅広の片刃剣が出てくる。 長剣を掴んだ「左手」の甲が、低い唸りを上げまばゆい輝きを放つ。 「冥土の土産だ、見せてやる」 ぎちり、と歪ませた唇の間から歯が覗く。 両手に刀を下げたシスターが、ゆったりと、禍々しく嘲笑う。 「島原抜刀流! 秋 水 !!!」 死を撒き散らす二刃の竜巻に巻き込まれ、傭兵達の手が、足が、首が千切れ飛ぶ。 渦巻く血風の中から楽しげな声が響く。 『へへ、まったくもってお前ぇさんにゃおでれーた! 感情の高ぶりがガンダールヴの力の源とはいうがなあ、相棒。 手前ぇの主人を殴り飛ばして出奔した使い魔てーのも初めてなら、 ここまでガンダールヴの力を引き出せる奴もお前ぇさんが初めてだ!』 「いちいち嫌なことを思い出させるんじゃねーよ。 あん時居たのが由美子じゃなけりゃ、あのヒヒ爺ィ! ブチ殺してやれたのに。 大体アンタやっぱ邪魔だわ、二刀流なんて動きにくいし」 『冷てーこと言うなよ相棒』 「相棒って呼ぶなっつてるでしょ、このなまくら」 臓物と血溜まりの中でのん気に言い合う。 「何だこいつら、、何だこいつらァ!」 腰を抜かしてへたり込む傭兵に、女がゆっくりと近づく。 「アンタには二つの選択肢がある」 無慈悲な顔で見下ろしながら、右手の日本刀を男に突きつける。 「こいつで縦真っ二つになるか、、、」 「わ、分かった! もう二度とこの村には」 「このなまくらで横真っ二つになるかよ」 「~~!!」 必死に立ち上がり、逃げようとする男にうっとりと微笑みかける。 「あ~ら贅沢。 両方、だなんて」 綺麗に四分割された男の破片に囲まれ、臓物まみれの顔で 自分を見上げる老人に、シスターは優しく手を差し伸べる。 「大丈夫ですか? お怪我はありませんか、村長さん」 老人が必死の形相で後ずさる。 「ひいぃぃっ~~! 来るな、来るなぁ! お願い、来ないでぇ~! マジすみませんっ! 命だけは、命だけはぁ~!!」 隠れて見ていた傭兵が、カチカチと歯を鳴らす。 「な、何モンなんだあの女! 、、、本隊に戻って、報告を」 「どこへ行こうというのかね?」 振り返った男の額に銃口が突きつけられた。 「どこへも逃げられはせんよ」 銃声にシスターが振り返ると、そこには真っ白いスーツの男が立っていた。 「やっと思い出したよ。 ヴァチカンの殺し屋集団、イスカリオテの狂えるシスター。 『バーサーカー』、高木由美江。 こんな所で会えるとは光栄だ」 血刀を握った両手を友好的に広げ、歯を見せて笑顔を返す。 「アタシもアンタを知ってるよ。 裏の世界じゃ有名だ、人でなしのヴァレンタイン兄弟。 ヘルシングにトっ込んで返り討ちにされたって聞いてたけど、 こんな所に居たとはねぇ。 ルーク・バレンタイン!」 ゆっくりと二人が近づいていく。 「で、どうする?」 双銃と双剣を構えた、白と黒とが対峙した。 由美江が哂う。 「ハハッ、眼前に化物を放置して! 何がイスカリオテか! 何がバチカンかァ!!」 ルークが応える。 「そうでなくてはな、そうであろうとも。 さあ殺ろうぜ、ジューダスプリースト!!」 「おやめくだされ、シスター!」 「や、やめて、ルークさん!」 「 ハ ァ ~ イ ♪ 」 二人の間に魔法陣が現れて、陰気な声が陽気に響いた。 「死霊を呼び出してコキ使おうとしても見つからんと思ったら、 こーーんな所におったのかね、高木由美江クン」 黒ずくめの男がずるりと魔法陣から這い出した。 「あ、貴方は確か、日本支部の間久部(マクベ)神父?!」 右眉から頬にかけて大きな傷のある陰気な顔をした神父姿の男は、 一筋垂れた前髪の奥の目をにやりと歪ませドス黒く微笑んだ。 「お久しぶりだねー、10年ぶり? けどね、もう神父じゃーない、司教なんだよ由美江クン? 君ンとこの上司だったマックスウェル君がおっ死ンでいい迷惑だ。 今じゃ私は君の上役、イスカリオテの機関長、なんだよ?」 やれやれとため息をつく。 「せっかく超レアな聖遺物をいじくり回してステッキーな研究を 教会の金で思う存分ゲップが出るほどやれてたっていうのに。 それもこれもコロっとおっ死ンだマッックスウェル君の所為だ。 で。 神の裏ワザを使って人手不足解消を、と思ったんだが」 間久部神父は周りの惨状を見回す。 「どこかねここは?」 「誰だ貴様は?」 突然現れた男の長口上に痺れを切らしたルークが不用意に近づく。 スパァンッ! ルークの頭を無造作にワシ掴むと、ガッチリと目を見つめる。 ミ゛ワ゛ミ゛ワ゛ミ゛ワ゛ミ゛ワ゛ミ゛ワ゛ミ゛ワ゛ミ゛ワ゛ミ゛ワ゛ 「 今ネッ トーッテモ大事なおハナシしてるんだからァ 静かにシテないと駄目ッツッたら駄目デショ ネッ 」 ルークがうつろな目で口をパクパクと動かす。 「ハイ アザラクサマハ スバラシイ 先生(ティーテャー)デス」 「っきゃーっ!」 ティファニアが悲鳴を上げてルークを奪い返す。 「なッナニうちのルークさん洗脳してるんですかぁっ!!」 「で。 ナニがあったのかね? 耳の長いお嬢さん」 。。 ゚○゚ 「なるほどなるほど」 一通りの話を聞き終えた間久部が神妙にうなづく。 「もう、もうわしらはお終いじゃあ」 落ち着きを取り戻した村長が、がっくりと肩を落とす。 「いやいや、そんな事は有りませんよ? ご老人。 悩めるもの、迷えるものの救いを求める手を 我らが神が振り払うことなど有り得ません。 ましてや、私や、このシスター高木はね」 絶望の底にある村人達ににっこりと微笑む。 「祈りなさい。さらば、救いの御手は伸ばされましょう」 「おお、おお」 老人がぽろぽろと涙を落とす。 「ちょちょ、ちょっと待ってよ、機関長。 私を連れ帰るんじゃなかったの?」 由美江が小声で間久部に詰め寄る。 「何を言っとるんだ、君はバカかね? バチカンのバカチンかね? アッチではもう君はおっ死ンどるんだよ。 生身の君を連れ帰ったら黒魔術じゃないか。 火あぶりだ。 マッッックスウェル君の所為でこちとら肩身が狭いんだよ? それにね」 二人をすがる様に見つめる村人たちを見渡す。 「君がこの世界に来た事も、主のお導きだとは、、思わないかね?」 「機関長、、、」 「君はおそらく遣わされたのだよ、彼らを、この世界を救うために。 それこそが君の、カトリックの「果たすべき務め」だ」 そっと由美江の肩に手を置く。 「果たすべき、、、務め」 ティファニアの呟きを耳ざとく聴き付け、笑いかける。 「そう「果たすべき務め」、神の与え給うた使命だ。 そしてそれは君にもあるはずだよ、耳の長いお嬢さん」 「マクベ、さん、、」 「フン、そんなに簡単にいくものか。 この世界の「ブリミル教」は、中々に強大だぞ? この村ごと焼かれて終わりだろう」 ふらつく頭を抑えながらルークが横ヤリを入れるのへ、 「それなら何とかできるかもしれないなあ~!」 話を見守っていたシュレディンガーが入ってくる。 「まあ、そこのお二人しだいだけど」 ルークと由美江を交互に見返す。 「そ、それはどういう事ですじゃ?!」 詰め寄る村長へ手をかざす。 「ちょっと待ってて」 ============================== 「ジャ~ン、こういう事!」 シュレディンガーが持って来た書類には、アルビオン王ジェームズ1世の 署名と共に、信仰の自由と村の独立自治を認める旨が記されてあった。 「あ、貴方様はいったい、、、」 驚く村長へ、自慢げに胸を張る。 「僕? えっへっへー、僕はねー。 トリステイン王国のアルビオン特別大使補佐官、シュレディンガー!」 目を丸くする一同をよそに、ルークと由美江に顔を向ける。 「条件は、『王党派として貴族派の反乱鎮圧に二人が協力する事』」 王党派、と聞いて顔を曇らせるティファニアへ、 村長や他の村人達が地面に額をこすらせる。 「厚かましい願いとは思っておりますじゃ。 ティファニア殿が王宮へ何ぞ遺恨があるのも存じておりますじゃ! しかし、しかし、何卒ワシらをお助け下さらんか! お願いですじゃ、ティファニア殿、ルーク殿!!」 見つめるティファニアを、ルークが見つめ返す。 「私は単なる用心棒だ。 決めるのはお前だ、テファ」 ティファニアが意を決し、村人に向き直る。 「王への遺恨はあります、それを忘れられるかどうかも判りません、、、 しかし、皆さんを見捨てることなんて、私には出来ません!」 「おお、ティファニア殿、、ティファニア殿、、 何と、何とお礼を申せば良いか」 老人の手を取り、首を振り、微笑む。 「お礼なんて。 皆さんはエルフであるこの私を、村人の一人の様に 受け入れて下さいました。 それで十分です」 ティファニアがゆっくりと立ち上がり、自分に笑顔を向ける四人を、 ルークを、由美江を、間久部を、そしてシュレディンガーを見回す。 「ま、オーク鬼も狩り飽きていた所だ」 「フンッ、化物どもと呉越同舟たぁね」 「まーそう言うな由美江クン、立ってる者は化物でも使え、だ」 『そうだぜ相棒、はぐれモン同士楽しくいこーや』 「えへへ~、これで中々良い勝負になりそうじゃない?」 シュレディンガーはにんまりと、遥か北の空へ目を向けた。 黒煙たなびくロンディニウムの空へ。 † 蜀台の炎が形作る影が、石で囲われた部屋の壁に蛇のようにうねる。 黴の匂い、煤の匂い、そして石畳に滴る血の匂い。 日の光すら届かぬ深い深い地下の牢獄。 その部屋の中央には椅子の上で後手に縛られ麻袋を被せられた男が一人。 手首から先にも袋が被されてはいたが、床に滴るほどに血が滲んでいた。 その前には3人の人影。 一人は真っ黒な頭巾をかぶった尋問官。 もう一人はカールした金髪に丸い球帽をかぶった聖職者風の男。 その男が、傍らに立つ白ずくめのスーツを着た黒髪の少女に話しかける。 「シェフィールド殿、この者が例の目撃者です」 十をいくらかも過ぎぬようなその少女への畏怖を隠そうともせず、 緊張した面持ちで尋問官へあごをしゃくる。 「話せ」 尋問官が椅子の男に短く言うと、被された麻袋を取る。 出てきた男の顔はまだ三十そこそこだったが、それまでに受けた 「尋問」のため、それより十は老けて見えた。 片目を覆うようにぐるりと包帯が巻かれ、そこにも血が滲んでいる。 「わ、私はただの整備士でございます! あの船に工作をしたなど、断じて、断じてそのような事は!!」 「わかっておるとも」 血の泡を飛ばし弁解する男へ、少女が優しく語り掛ける。 血で汚れた男の顔にそっと手を置く。 「おまえが見たというものを、この私に教えてはくれんかの?」 自分に微笑みかける少女へ、男は歯の折れた口でおずおずと語りだす。 「私が、レキシントン号で最後の点検をしていた時のことです。 突然の爆発音に動力室へ駆けつけた私の前に、アレが、いたのです。 アレは、あなた様と同じくらいの幼い娘の姿形をしてはおりましたが、、、 炎に照らされたその髪は燃えるように真っ赤で、私を背中越しに 振り返ったその瞳も真紅そのものでした。 そして、、、」 うつろに前を見つめたまま、男が息を呑む。 「そして、その頭の上には、、おお、恐ろしい、、、 太く短くささくれ立った二本のツノが生えておりました! アレは古い話に伝え聞く、始祖ブリミルの加護を捨て、 悪魔と契約を交わした邪なるメイジ、『魔女』に違いありません! きっと追い詰められた王党派の連中は、悪魔と手を結んだのです! そしてその『魔女』めは、私を一瞥するなり向こうを向くと ルーンを唱える事も無く、そのまま消えてしまったのです。 まるで初めから、『虚無』そのものででもあったかのように! あのような魔法、見たことも聞いたこともありません! あれは、、信じてくださいまし! あれは、『魔女』にございます! あれは、『虚無』の『魔女』の仕業にございます!」 「信じる、信じるとも」 目の前の少女がにっこりと笑う。 「じゃがの、もうちっと詳しく知りたいんじゃ。 だからの」 両手を男の頬に添えて、少女は口を大きく開く。 びっしりと乱杭歯の並ぶ、地獄のように真っ赤な口を。 「洗いざらいしゃべってもらおう、おまえの命に」 途切れ途切れの断末魔の声に、球帽の男は思わず顔をそむける。 ごとり、と床に落ちた干乾びた死体が、ずぶずぶと影の中に沈んでいく。 「ツノ、、、? いや、これは」 もはや床には死体どころか血の一滴も残ってはいない。 真っ白い闇のような、少女の形をしたモノが球帽の男へ微笑みかける。 「クロムウェルや、私も逢うてみたいのう。 その、 『虚無の魔女』 とやらに」 † 前ページ次ページ確率世界のヴァリエール
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前ページ次ページ確率世界のヴァリエール (犯した罪への罰なのだ) ルイズは船の上で、ただ思った。 トリステインの港町、ラ・ロシェールへ向かう軍艦イーグル号の上で。 運命には抗えない。 手にした『始祖の祈祷書』を見つめる。 虚無の系統たる己の力そのもの、己が虚無の担い手だという証。 それが、なんだというのか。 その力も、証も、結局は何の役にも立たなかったでは無いか。 借り物の力を得て、この世界の主人公でも気取っていたのか。 使い魔が居なければ何も出来ない、役立たずの『ゼロ』。 そして私はその使い魔を、自身の片翼を、自らの手で裏切った。 この結末は当然の帰結、必然の応報なのだ。 私には運命を変えることなど出来はしなかった。 † シュレディンガーが消え去ったあの後。 皇太子の亡骸にルイズが気付いたのは、全てが終わった後だった。 彼の胸に空いた大きな傷がエア・ニードルによるものだという事。 そして、彼女の伴侶となったワルドの最期の言葉。 その時になって、やっと彼女は全てを悟った。 自分が取り返しのつかない過ちを犯してしまったという事を。 発砲の轟音に気付いた衛兵が礼拝堂の鍵を壊して中に入って来た時も、 ルイズは一人座り込んだままだった。 突然降りかかった凶事にニューカッスル城が混乱に包まれる中、 ルイズはアルビオン王国国王ジェームズ一世の前に引き出された。 ルイズは死を覚悟していた。 いや、それこそが己に出来るせめてもの償いだと思った。 自分が手引きして皇太子を殺したも同然だ。 あの夜、このニューカッスル城で守ると誓ったその命を 今日、この手で暗殺者に売り渡してしまったのだ。 そしてその暗殺者も、自分が愛したその男も、最早この世にいない。 ルイズが死を望んだのは、覚悟でなく、償いでなく、 あるいは単なる逃避だったのかもしれない。 しかし、ルイズのその望みが叶う事はなかった。 アルビオンの王は何を問い質す事もせず、彼女を許しのだ。 年老いた王はルイズの手を取ると、やさしく語りかけた。 「大使殿。 初めて会うたあの夜より、我らの命運は定まっておったのじゃ。 民も、貴族も、王であっても、運命(さだめ)からは逃げられぬ。 朕らが無様に足掻いたがゆえに、そなたらを巻き込んだ。 朕を許せ。 そして我が息子を、許してやってくれ」 老王の瞳は曇りなく澄み、己が命運を受け入れんとしている。 彼はあの夜と同じ顔をしていた。 最期の戦いを迎えようとしていた、あの夜と。 ルイズは何かを言おうとして言えず、ただぼろぼろと涙した。 ジェームズ一世は立ち上がると、決然と皆に告げた。 「戦の支度を!」 ニューカッスルを揺さぶらんばかりの悲壮な鬨の声がそれに応えた。 † そしてルイズはその夜のうちにイーグル号の艦上の人となった。 明日の昼にはトリステインの港町ラ・ロシェールへたどり着く。 艦内にはニューカッスルからトリステインへ疎開する人々や ワルドの裏切りに与していなかった元部下達も乗り合わせていたが、 彼らの誰もが口をきくことなく押し黙っていた。 狭い船室の中、窓の外には月のない夜空と雲海が広がる。 運命には抗えない。 私には運命を変えることなど出来はしなかった。 いや、愚かしくも自ら運命の手綱を手離してしまったのだ。 あの時死ぬ筈だった人たちは今、定めどおりに死へ向かい、 あの時乗る筈だったこの船に今、定めどおりに乗っている。 全ては、全ての運命は、おそらく変わる事はなかったのだ。 ルイズは手にした『始祖の祈祷書』をもう一度見つめ、 声もなく涙を落とした。 † イーグル号がラ・ロシェールへと到着するまで、ルイズは ベッドの上でひざを抱えたまま一切の食事も睡眠も取る事はなかった。 デッキへ降り立ったルイズを初夏の日差しが照りつける。 彼女の絶望を、失意を、世界は意にも介していないとでも言うように 空は晴れ渡っていた。 王が倒れ、国が滅んだところで世界は何も変わらない。 ましてや私一人、どんなに運命を呪い嘆き悲しんだところで。 一人うつむき、小さく自嘲する。 「ルイズ!」 突然の自分を呼ぶ声に、びくりと身を強張らせる。 この、声は。 顔を上げたその前に、トリステイン王女アンリエッタの姿があった。 「姫、殿下、、、?」 どうしてここに。 ルイズの顔が悔恨と恐怖の涙に歪み、膝が揺れる。 思わず後ずさるルイズの腕をアンリエッタが掴み、 震える肩を優しく抱きしめた。 「わ、私、、姫、殿下、、わたし!」 「よいのです! もう、よいのです、ルイズ、、、」 ルイズを抱きしめる腕に力がこもる。 暖かな体温がルイズを包む。 「アンリエッタ様、、、」 ルイズは初めて大きな声を上げて泣いた。 。。 ゚○゚ 同時刻、トリステイン王都トリスタニアの王宮、その奥まった一室。 茶をすするトリステイン魔法学院の学院長、オールド・オスマンの前で マザリーニ枢機卿はため息をひとつついた。 「今度ばかりはあの娘にかけてやる言葉が見つからん」 「ワルドはおぬし直々の選任じゃったかの」 「責任は取る」 「真面目に返すな鳥の骨、何ともからかい甲斐のない事じゃ」 「年寄りの冗談に付き合う気分でもないわ。 この一件が片付けば、全ての責を負い身を引こうと考えておる。 丁度良い頃合だ」 マザリーニが力なく笑う。 「こういう時におぬしが居ってくれて良かった」 オスマンが茶を吹きそうになる。 「気持ちの悪い事を抜かすな。 それに、鉄火場はここからじゃろうに」 オスマンは椅子に座りなおしてマザリーニを見つめた。 「アルビオンのジェームズ王は何と?」 「ただ『我らのみにて雌雄を決す』、と」 オスマンがやれやれと首を振る。 「こちらの責を問う事はないが、助力も請わぬという事か。 なんとも勇ましい事じゃ」 「それだけミス・ヴァリエールがジェームズ王に信頼されて おったということだろう」 「この際は有難い、か? 実際こちらも他所に手を貸す状況ではない様(ザマ)じゃからのう。 しかしまさかワルド子爵の通じて居った先がよりによって」 今度はオスマンがため息をつく。 「ガリアとはの」 マザリーニの顔が険しくなる。 「だが「状況」から見て間違いあるまい」 「その「状況」とやらに変化はなしか?」 「ガリアとの国境線、オルレアン湖岸の60隻のガリア艦隊はそのままよ。 『アルビオン内乱に拡大の兆しあり 貴国防衛の助力をせんとす』 そういったままこちらの返答を待っておる」 「隙あらば混乱に乗じこの王都を攻め落とすつもりじゃろうのう。 ダングルテールに二個師団を配させたのもワルドの策略じゃったな。 このトリスタニアから北と南では、今から呼び戻しても遠すぎる。 アルビオンへ上るはずじゃったラ・ロシェールの艦隊を 王都防衛に当てる他ないというわけじゃ」 「うむ、向こうに居られる姫の護衛とラ・ロシェール防衛分を除き、 残りは全てこちらに引き戻させる」 「おお、そうか。 アンリエッタ殿下が直々にミス・ヴァリエールを 迎えに参られたんじゃったの」 オスマンが窓の外、ラ・ロシェールの方角を見つめる。 「殿下のお心が、せめてあの娘の慰めになれば良いがのう」 。。 ゚○゚ 「ルイズっ?!」 ラ・ロシェール領主の邸宅へと案内されたルイズを待っていたのは、 涙と鼻水で顔をぐしゃぐしゃにしたキュルケの乱暴な抱擁だった。 「大丈夫だった?! どっこも怪我してない?! ああもうこの馬鹿ルイズ、みんなに心配掛けて!! あぐっ、ふぐうぅ、ほんとにっ、ほんとにもうっ!! あ゛う゛う゛、、良がっだぁあ゛あ゛~~~!」 キュルケは胸にルイズをかき抱いたままその場にへたり込むと 人目も憚らずにえぐえぐとしゃくりあげ、ルイズの頭を乱暴に しかし愛おしげに頬を寄せて何度も何度も撫でさする。 領主邸の庭園にも、涙ぐみ安堵する学友たちの顔があった。 ギーシュ、モンモランシー、ケティ、マリコルヌ、シエスタ。 いつもは冷静なタバサも、うっすらと涙をためた目で ルイズに向かって微笑みかけている。 その横にはギーシュの使い魔、大モグラのヴェルダンデ、 キュルケの使い魔、サラマンダーのフレイム、 タバサの使い魔、シルフィードの姿もある。 「ど、どうして、みんなここに?」 目にたまった涙をぬぐい、やっと落ち着いたキュルケが優しく笑う。 「アンがね、アンリエッタ様がアンタの事を知らせてくれたの。 それでね、みんなでね、迎えにいこうって」 そういって立ち上がると傍らのアンリエッタを振り返る。 「御免なさいね、ルイズ。 私一人では心細くって」 「と、とんでもありません、アンリエッタ様! 私は、アンリエッタ様に、それにみんなにも 心配をかけてしまって、、、それに、それに、、、」 「 『それに』 はもういいの!!」 キュルケがルイズを再び強く抱きしめ、泣き笑いの顔で頭をなでる。 「もういいの。 アンも言ってたでしょ? アンタが無事なら、それでいいの」 「キュルケ、、、」 「そ、れ、に!」 キュルケが腕を伸ばし、アンリエッタをルイズと一緒に抱きしめる。 慌てる近衛兵たちを同行していたアニエスが困り笑顔で制する。 「男なんて星の数よ。 この世界に良い男なんていーっぱいいるわ♪」 二人のひたいにこつりと頭を当てて、涙をぬぐい冗談めかして笑う。 「なっ?!」 「まあ、キュルケったら」 アンリエッタが涙目のままくすくすと笑う。 「それでもいい男が見つからなかったときは、 その時には、アタシが居るわ」 「!!」 耳まで真っ赤になるアンリエッタをよそに キュルケはルイズに口付けようと唇を尖らせ迫る。 「んむ~っ」 めしっ。 ルイズの正拳がキュルケの顔にめり込んだ。 「結局あんたはいっつもそれか!!」 顔を赤くしながらもキュルケに怒鳴る。 「そうそう、ルイズちゃんはそうでなくっちゃ」 殴られた鼻をさすりながら、キュルケが笑いかけた。 ルイズはため息を一つつき、仲間達を見回す。 「あの、みんな、、、」 「 「 「 謝るのは無し! 」 」 」 みなが声を揃えてルイズに言う。 小さくうなずくと、ルイズはもう一度皆を見回した。 「うん。 ただいま、みんな」 。。 ゚○゚ その日ルイズは皆と大いに語らい、飲み、食べて、 また語らい、語らい尽きることなく眠った。 誰も彼女の使い魔の事に触れなかったが、ルイズは 皆のその心遣いに感謝した。 それはおそらくルイズにとって、人生最良の一日だった。 。。 ゚○゚ 明くる朝。 それを最初に見つけたのはマリコルヌだった。 朝の光のさす世界樹<イグドラシル>の上、晴れ渡る空を見ながら マリコルヌはしばしの散歩を楽しんでいた。 何隻もの軍艦を係留している世界樹を吹き抜けた風が、 酔いの残る火照った顔をなでていく。 山あいの太陽がゆっくりと顔を覗かせていくのをしばし見つめる。 (ああ、今日は日食だったっけ) 昨晩の席で、アンリエッタ姫も一緒にタルブへ日食を見に行こうと 盛り上がっていたのを思い返す。 田舎の村にいきなりお姫様がやってきたら、上を下への大騒ぎになるだろう。 そんな事を考えながら、このラ・ロシェールからいくらも 離れていないというタルブの方角を眺める。 遥かな山々の向こうに幾筋かの煙が立ち上っている。 「あそこかな、、、ん?」 その先の景色に違和感を覚える。 肩にとまっていたフクロウ、使い魔のクヴァーシルが 羽をばたつかせてけたたましい鳴き声を上げる。 「あれ、は、、、あれは!!」 彼の見つめる彼方で、旗艦レキシントン号率いるレコン・キスタの艦隊が、 今まさにこのトリステインへ降下しようとしていた。 マリコルヌが駆け足で皆の所へ戻った時には、ラ・ロシェールは 既に厳戒令の中にあった。 市民達は怯えながらも避難指示に従い、隊列を組んだ兵士達が 慌しく横を駆けていく。 「み、みんな、無事?」 「あんたこそ! 探したのよ!」 すでにラ・ロシェール領主邸宅の庭には制服に着替えたルイズ達が 集まっており、戻ってきたマリコルヌを見つけ安堵の表情を浮かべる。 「レコン・キスタが来たらしいんだけど、どーなってんのよこれ?」 落ち着かなげなキュルケの横には、シエスタが不安げに寄り添う。 遠くかすかに、しかし低く太い遠雷のような音が絶え間なく響いている。 山の間に昇る朝日とは逆の方角の雲が、赤々と照らされて見える。 「あ、あの、マリコルヌさん? あの明るいのって、、」 「、、、タルブだよ、あいつらタルブの方から降りて来てるんだ」 それを聞いてシエスタが血の気を失いその場に倒れこむ。 「大丈夫?! シエスタ!」 倒れ掛かるシエスタをキュルケが受けとめる。 「ご、ごめんなさいキュルケさん、それより、姫殿下を」 「そ、そうだわ! マリコルヌ、あんたアンリエッタ様見なかった?!」 マリコルヌへルイズが詰め寄る。 「ひ、姫殿下なら」 「見たの?!」 「世界樹の上で。 アニエスさんや他の近衛兵と一緒に戦艦に乗り込む所だった」 「姫が?!」 皆が世界樹<イグドラシル>を見上げる。 全ての艦が桟橋を離れ発進しようとしていた。 赤く燃えるタルブへと向けて。 † タルブ開戦の報せはトリスタニアの王宮にも届けられていた。 「タルブ領主、アストン伯戦死!」 「レコン・キスタはタルブへ降下兵を展開!」 「レコン・キスタ艦隊十四隻、そのままラ・ロシェールへ転進!」 多数の伝令と喧々諤々の議論を続ける貴族とでごったがえす 大会議室へ、ローブを羽織ったオスマンが入ってくる。 「いよいよか来たか。 しかしタルブからとはの」 「オスマンか」 伝令たちに次々と指示を出していたマザリーニが振り返る。 「あ奴らロンディニウムを守る船さえ捨てて かき集められるだけの船をかき集めて来おったらしい」 「まさに背水の陣じゃの」 「ここであの貴族派の奴らめがラ・ロシェールを落とす事にでもなれば 南のガリアが鎮圧の協力を口実に一斉になだれ込んで来るだろう。 いや、ハナからそういう手はずだろうて。 ええい、姫殿下の安否はまだわからぬか?! 殿下を乗せたフネはどこまで戻っておる!!」 苛立つマザリーニの元へ血相を変えた伝令が飛び込んでくる。 「枢機卿、報告いたします! ラ・ロシェール駐留艦隊全五隻、レコン・キスタと交戦中!」 「全隻、だと? ばかな! 姫は、アンリエッタ姫殿下はいずこにおわす?!」 「は、殿下は、、、 アンリエッタ姫殿下は前線で全軍の指揮を執っておいでです!」 † 遠くの山肌に幾本もの土煙が立ち上り、数瞬遅れて砲撃の轟音が ビリビリと大気を揺らしてラ・ロシェールの市内にまで伝わる。 レコン・キスタ艦隊十四隻とラ・ロシェール駐留艦隊五隻は タルブとラ・ロシェールとを結ぶ山峡内にて激突していた。 「戦艦ソレイユ被弾、中破です!」 「あれがレキシントン、この距離で大砲が届くのか!」 「竜騎兵を再編成、出撃急げ!」 「第二波、来ます!」 「殿下、矢張りここはいったん引くべきでは?!」 トリステイン空軍ラ・ロシェール駐留部隊、戦艦メルカトール号。 横で叫ぶ艦隊司令官のラ・ラメーに、アンリエッタは毅然と返す。 「なりません! ここで引けばラ・ロシェールは落ちます。 そうなれば南で待ち構えるガリア艦隊がそれを口実に トリステイン国内へ進軍を開始してまいりましょう。 必ず援軍は来ます! トリスタニア防衛に向かった艦隊の中から援軍が戻ります、 それまで何としても、何としても持ちこたえるのです!」 アンリエッタははるか後方の世界樹<イグドラシル>を振り返り、 昨晩の語らいを思い返す。 (あそこには自分の友がいる) 国も身分も関係なく、ただ一人の年頃の少女として過ごせた時間。 ルイズだけではない。 キュルケも、ギーシュも、モンモランシーも、ケティも、 シエスタも、マリコルヌも、今や自分にとって大切な友人だった。 (見守っていて下さい、ウェールズ様。 私の命をかけても、皆を、私の友を守ります!) 遥か彼方のアルビオン大陸を思う。 「攻撃を敵旗艦に集中、押し戻すのです!」 勇ましく杖を掲げ、アンリエッタは正面の戦艦レキシントンを睨んだ。 † アンリエッタが見据えるそのレキシントン号の艦上。 神聖アルビオン共和国皇帝オリヴァー・クロムウェルは苛立ちを隠せずにいた。 「砲撃がこのレキシントンに集中しているではないか! 他の艦は何をしている? レキシントンを下げろ、余を殺す気か?! 相手はこちらの半数以下ではないか、敵を包囲し押し潰せ!」 わめくクロムウェルをレキシントン号艦長ボーウッドが静かにいさめる。 「閣下、相手は山間の地形をうまく利用し、我が方は横へ展開できません。 数の利を生かしきれませんが、正面から撃ち合うより他ありません」 「大体ラ・ロシェールの艦隊は全艦が王都へ向かったのではなかったのか? トリスタニアへ着ければよいのだ、迂回するわけにはいかんのか?!」 「ここはトリステイン軍を各個撃破する絶好の機会です。 それにここで相手を残さば必ずや追撃を受けましょう」 沈着なボーウッドをクロムウェルが忌々しげに睨む。 「ええい、艦で横に回れぬというのなら竜騎兵だ、 竜騎兵を出して敵を囲ませろ!」 「ですが、あまりに竜騎兵を前線に出しすぎては艦砲射撃が使えません。 味方を巻き込んでしまいます」 「ならばどうしろというのだ?!」 「むしろ竜騎兵を陽動に使われては? 迂回させラ・ロシェールを襲わせて敵の気を逸らすのです。 ラ・ロシェールに援護を割く様であれば、そのまま敵を押し込めます」 「そ、そうか」 「ついでにワルドの置き土産も使われてはいかがですか?」 「うむ、あの女か、そうだな。 どうせ空に置いていたとて使い道も無いか。 ではそうしろ! どうした、早くやれ!」 そのままクロムウェルは座席にどすりと座り込み手を組んで顔を伏せる。 本来ならばラ・ロシェール駐留艦隊など発艦前に全滅させて然るべきだ。 それがタルブに手間取っている内にこのザマとは。 ハルケギニア最強の空軍も今は昔という訳か。 それもこれも、あの小娘のせいだ。 使い魔を引き連れてただ一人でアルビオンの戦艦を落として回り、 レコン・キスタ全軍を混乱に陥れたあの桃髪の小娘。 あの娘さえ居なければ、全てはあの日ニューカッスルで終わっていたのだ。 (ええい、『虚無の魔女』め!) 「竜騎兵部隊、戦列を組め!」 「軍団(レギオン)! 軍団(レギオン)! 軍団(レギオーン)!」 アルビオン艦隊の下に竜騎兵がゆっくりと弧を描きつつ集結していく。 「竜騎兵部隊、突撃準備よし!」 「次の砲撃の合間に出るぞ! 前方敵艦隊を右手山領より迂回、進行する! 目標、ラ・ロシェール市内!!」 † 「はあ? アンタ一人でどうするってのよ?!」 「じゃあここで指をくわえてみてろって言うの?!」 ラ・ロシェール領主邸宅の庭先で、キュルケとルイズが怒鳴りあう。 周りを重武装した兵士達が駆け抜け、竜騎兵が次々と空へ飛び立っていく。 「そう言ってるのよ。 戦争が、戦争が始まっちゃったのよ? もうアンタ一人の力でどうこうできる事なんて残ってないわ!」 「まだよ、、、」 ルイズはゆっくりと懐に手を差し入れ『始祖の祈祷書』を取り出す。 「私には、これがあるわ」 「ふう、やれやれ。 つまりルイズは、僕らも知らない「とっておき」を まだ隠し持ってるってことかい?」 ギーシュの言葉に、ルイズは静かにうなづく。 「でも、どうやってあそこまでいくってのよ?」 彼方の空を見上げるモンモランシーの横を、タバサが進み出る。 「、、、タバサ」 問いかけるルイズへ静かにうなずき、力強く微笑む。 タバサの横のシルフィードも、頭をもたげきゅいきゅいと頬を寄せる。 「シルフィも、、、」 ルイズはシルフィードの頭をそっと抱き寄せた。 「ちょっとみんな待って、あれ!」 マリコルヌの声に皆が振り向く。 「、、、やれやれ、話は後って所だねえ」 ギーシュの見つめるその先には、編隊を組みこちらへ向かってくる アルビオン竜騎兵の大部隊の姿があった。 その内十数騎ほどが、本体を離れゆっくりとこちらへ転進する。 戦事(いくさごと)に慣れていないシエスタがおろおろと周りを見回す。 「ど、どうしましょう? 敵が、こっちへ来てるみたいです?」 「そりゃあここは領主邸だからねえ、攻撃目標の一つになってて当然さ」 冷や汗を流しながらギーシュが答える。 「領、領主さまはどちらに?」 「さっき世界樹のほうへ行ってたよ、不幸中の幸いだね。 ま、あちらも攻撃を受けるだろうがここよりはましだ」 「そんな?! みなさん、とりあえずお屋敷の中へ、、」 駆け出そうとするシエスタの腕をモンモランシーが掴む。 「ダメ、シエスタ。 火竜の火を射掛けられればかえって危険だわ」 「ああ、そうだな。 シエスタ、見つからないよう塀の陰に隠れて居るんだ。 モンモランシー、ケティ、君たちもだ。 ケティ、いざって時は君の「火」で二人を守ってくれ、頼んだよ」 「は、はいっ。 わかりました、ギーシュさま!」 ケティが真剣な面持ちで頷く。 「君たちもだっ、てギーシュ! あなた何をするつもりなの?」 モンモランシーの問いにギーシュは空を見すえたまま、静かに杖を抜く。 「僕らはルイズを送り出すために、なんとか隙を作らなくちゃあならない。 君は僕らの中で唯一の癒し手(ヒーラー)だ。 君が文字通り僕らの生命線だ」 「そそそ、そうとも、怪我を治してくれる君が先に怪我をしたら、 ここ、こっちが困るじゃないか」 カチカチと歯を鳴らしつつ、マリコルヌも強張った笑みで杖を抜く。 「あら~、男じゃないのマリコルヌ。 惚れちゃいそ」 キュルケがマリコルヌへ流し目を送りつつ杖を掲げる。 ギーシュがルイズを振り返る。 「すまない、ルイズ。 君の力も必要かもしれない。 君のその「とっておき」を使う余力を取っておくとして、 他にどのくらいの魔法までなら使える?」 「え? ああ、そうね」 既に杖を抜いていたルイズが突然の質問に考え込む。 「ええと、何と言ったらいいか、『虚無』の魔法は特別なの。 普通の魔法を使うのとは別の「力」を使うのよ。 だから、使えるだけの魔法を使ってもそのあとで 『虚無』を使う事は出来る、、と、思う」 「ほほう、そりゃ便利だ」 言いながらギーシュが杖を振るうと、大きなタワーシールドと 投槍を構えた青銅の戦乙女(ワルキューレ)達が地面から立ち現れた。 上空では既に戦闘が始まっていた。 地上からの援護はあったが、それでも数と練度の違いは埋めがたく 防衛線はじりじりと押されつつある。 領主邸上空で戦っていた集団のうち、数騎のトリステイン竜騎兵が 翼を燃やされきりきりと落下していく。 均衡が破れ、六騎ほどのアルビオン竜騎兵がラ・ロシェール領主邸に 向かって一斉に降下を始めた。 「きき、来たわ! ギーシュ、どうすんの?!」 「ルイズ、一昨日の学院での練習を思い出すんだ。 フライ(飛行)の魔法を使ってくれ」 「そ、そんなんでどうなるってのよ!」 「良いから。 ただし、僕らにじゃあなく、彼らにだ」 ギーシュがこちらに向かって来る竜騎兵を杖で指し示す。 「わ、判ったわ」 ルイズが息を吐き、杖を構える。 「、、まだだ」 竜騎兵は大きく弧を描き、渦を巻くように領主邸を囲む。 「まだ引き付けて」 一騎が強く羽ばたき、残る竜騎兵もそれに続く。 「左手は添えるだけ。」 タバサがルイズの杖に手を添える。 迫り来る竜騎兵達が炎の息を浴びせようと首を反らせたその瞬間。 「今!」 「イル・フル・デラ・ソル・ウィンデ!」 ルイズの暴力的な威力のフライ(飛行)が竜騎兵を襲った。 今まさに殺到しようとしていた竜騎兵達が一瞬にしてバランスを崩し、 あるものは体勢を立て直そうとして屋敷や地面に激突し、 あるものは急浮上を制御できず空中で味方同士で衝突し、 あるものは騎士を振り落としそのまま空中で貼り付けにされる。 揚力と重力の均衡は破れ、火竜達は陸に上がった魚の様にもがいた。 「あぶない!」 その内の一騎が苦し紛れに炎の息を吹きかけてくるが、 ワルキューレのタワーシールドに受け流される。 「今だ、みんな!」 ギーシュの号令と共に、空中で身動きの取れない竜騎兵達に 魔法と投槍とが一斉に射掛けられた。 「やや、やったか?!」 初めての実戦にマリコルヌの声が上ずる。 「上出来だ。 ルイズ、タバサ、上空に敵は居ない。 今のうちに行くんだ」 頷きシルフィードに乗ろうとしたルイズを、突然に<空気の塊>が襲う。 割って入った一体のワルキューレが吹き飛ばされ、塀に激突した。 「そんなに急がなくっても良いじゃあないのさ」 その声に皆が屋敷の屋根を見上げる。 そこにはローブをまとった緑髪のメイジの姿があった。 「あんたは、フーケ!」 「お久しぶりねえ、おチビちゃんたち。 こんな所で再会できるとは、来た甲斐があったってもんさ。 せっかく会えたんだ、もうちょっと遊んでいきなさいよ」 フーケが杖を振るうと庭土がゴリゴリと音を立て盛り上がっていく。 「さて、いつぞやの借りを返させてもらうとするかね」 「いやいや、感謝するよフーケ。 こんな男冥利に尽きる台詞を言える機会が来るとはねえ」 やけに芝居がかったしぐさで髪をかき上げ、ギーシュが杖をかざす。 「ルイズ、ここは任せて先へ行け!」 「お、おい、ずるいぞギーシュ! 僕が言おうと思っていたのに」 「はっ、そんなおチビちゃん一人戦場に送り出したところで 何がどうなるってんだい? まったくこれだからガキは嫌いだよ」 完成した巨大な土くれのゴーレムにフーケがひらりと飛び移る。 「ルイズ!」 シルフィードの上のルイズへキュルケが呼びかける。 「感謝しなさいよ? お姫様を守るなんてオイシイ役回りを譲ってあげるんだから」 命をかけた場面でも変わらぬキュルケの物言いに、思わず心が和らぐ。 「はいはい、帰ったらいーっぱいキスしてあげるわよ」 ルイズがキュルケに投げキッスを送ると、シルフィードは 二度、三度と大きく羽ばたき空へ舞い上がっていった。 キュルケは流れ出る鼻血をぐいっとぬぐい、フーケに向き直る。 「さあ、やあっってやろうじゃないの!!」 。。 ゚○゚ シュレディンガーは夢を見ていた。 仲間と共に地獄を駆けた遠い遠い昔の夢を。 自分はいつからこの世界にいたのか。 思い出を手繰っても思い出せない。 最も古い記憶は、常に彼らと共にあった。 最古参の新兵にして無敵の敗残兵、 『最期の大隊』<ラストバタリオン> しかし、彼らの中にあっても自分だけは 特別な、特異な、ただ一人の存在だった。 それで良いと思っていた。 それが当たり前だと思っていた。 あの時までは。 あの桃髪の少女に出会うまでは。 意識がゆっくりと覚醒していく。 ぱたぱたと耳を払い、一つ大きく伸びをして、 懐かしく体を包む甘やかな香りをゆっくりと吸い込む。 鉄の匂い。 油の匂い。 火薬の匂い。 血の匂い。 『豹の巣』<パンテルシャンツェ> アーカードとアルビオンのハヴィランド宮殿で別れた後、 シュレディンガーは行く当てもなく世界中を彷徨い、 気付けばここに居た。 ジャブローの密林奥深くに隠された、我らが夢の棲家。 そして我らが夢のあと。 「らしくないなあ」 頭をぼりぼりとかき、起き出して足の向くままに歩き回る。 格納庫を離れ兵舎へ。 蜘蛛の巣の様に張り巡らされた地下道を歩く。 食堂を通り過ぎて武器庫へ。 足の向くまま行く当てもなく、しかし行き着く先は判っていた。 長い廊下の突き当たり、鉤十字の旗が掲げられた部屋の中。 机の上に置かれた鉤十字の腕章に手を触れる。 全てが古びた部屋の中で、それだけが場違いに新しい。 決別したはずの、過去の象徴。 シュレディンガーはそれを静かに手に取った。 「ちょっとだけなら良いよね、少佐」 。。 ゚○゚ 前ページ次ページ確率世界のヴァリエール
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前ページ次ページ確率世界のヴァリエール 「んでギーシュ、あんなこと言っちゃって とっておきの魔法でもあるの?」 「いやいや、僕の魔法はもう打ち止め」 攻撃の手を止め肩で息をするキュルケに向かい、ギーシュは 全ての花びらが散り落ちた杖をヒラヒラと振ってみせる。 「さあてそろそろ」 狂喜に歪んだフーケの声が響く。 甲高い金属音を立てて、二人の足元に最後のワルキューレが バラバラになって叩きつけられる。 「死んでもらっちゃおうかねえ!」 「んじゃどーすんの?」 キュルケが引きつり笑いでフーケのゴーレムを見上げる。 「なになに、仕込みは上々さ。 後はキュルケ、あのゴーレムの 足の一本でももいでくれる?」 「簡単に言ってくれちゃってまあ」 「出来ないの?」 「冗~談」 「なに話し込んでるんだよ二人とも! こっちもそろそろ打ち止めだ!」 「わ~かってるって!」 マリコルヌが目くらましのエア・ハンマーを打ち出すと同時に、 キュルケはモンモランシーと一緒に身を潜めていた 自身の使い魔フレイムの元に駆け寄る。 「フレイム。 アナタの「火」、ちょっと借りるわよ」 そう言いながらキュルケはフレイムの首を引き寄せる。 「使い魔の力を借りるってのはねぇ、 何もルイズの専売特許じゃあ無いのよ」 呪文を唱え掲げた杖の先に火を灯しつつ、自らの使い魔に口付ける。 そのとたん、杖を持ったキュルケの腕が燃え上がる。 その炎が束ねられ、杖先の火球が猛烈な勢いで膨れ上がっていく。 「一人一人では単なる火でも、 二人合わされば炎となるわ! 行くわよ、『フレイム』ボーールッ!!」 ゴゥンッッ!! 直径1メイルを超える大火球がゴーレムの足元で炸裂する。 「やったっ!」 爆音が静まり舞い上がった土煙が晴れていくと、 巨大なゴーレムは両膝から下を吹き飛ばされていた。 「喜んでいるところ悪いんだけどねえ」 ゴーレムの足が周りの土を吸い上げ見る間に再生されていく。 「この程度、どうって事ぁ無いんだよ!」 ゴーレムがゆっくりと立ち上がり、拳を振り上げる。 「さあ~、もう許さない! さあ~、誰も助からない! さあ~、さっさと死んじまえ!!」 「いや、お前の負けだ。 土くれのフーケ」 ゴーレムの前に立ちはだかったギーシュが高らかに宣言する。 「ハン! なに負け惜しみを、、、?!」 言いかけたその時、不意に足元のゴーレムががくがくと揺れ始める。 「成程たいした再生力だ、大飯喰らいの王様だ」 ゴーレムのあちこちがミミズ腫れの様にぼこぼこと盛り上がる。 「その彼の最大の武器が、彼の最大の弱点でもある。 古今暴君は己の傲岸さ故に毒酒をあおる」 「何をした?!」 「何もかも」 魔力を使い果たした杖をくるくると回し、 芝居がかった様子でギーシュが語る。 「港町ラ・ロシェール。 此処は良い所だねえ。 僕は来るのは初めてなのだけれど、一緒に訪れた親友の一人が 奇遇にもこの町の出身だったようでねえ。 昨日は存分に旧友と親交を暖めたようだよ」 フーケの足元がぼこりと盛り上がり、そこから何かが跳びかかる。 「紹介しよう、僕の親友にして僕の毒」 「っぎゃーーっ?!」 「ヴェルダンデとその仲間達だ」 制御を失い崩れ落ちた土くれの小山の上で、気絶したフーケの身に着けた 宝石にモグモグと何匹ものジャイアントモールがたかっている。 腕を火傷したキュルケを手当てするモンモランシーの横で ギーシュは空を仰ぎ見た。 (さあ、上手くやれよ、ルイズ) † アンリエッタの艦隊はラ・ロシェールへと押されつつあった。 ボーウッドの陽動作戦は功を奏し、アンリエッタは竜騎兵の大半を ラ・ロシェール防衛へ割り振らざるを得ず、防衛部隊が劣勢と なった時のために陣をラ・ロシェールに近い位置まで引いていた。 その後退に付け込まれ、大きく陣形を崩しつつある。 「ソレイユ撃沈! ソレイユ撃沈!!」 「くっ、乗員の退避を助けろ!」 「救助いそげ!」 「各艦被害状況を報告せよ!」 「三番艦、応答ありません!」 「連絡を取りに行け、フライででもだ!」 伝令達が慌しく走り回る戦艦メルカトール号の上で、 艦隊司令官のラ・ラメーがアンリエッタの元へ駆け寄る。 「殿下、これ以上引けば流れ弾がラ・ロシェールに届きかねません!」 「解っています。 ?! 提督!」 ごうっっ!! 後方から突然に炎のブレスを射掛けられる。 アンリエッタとラ・ラメーの周りに魔法障壁が張られるが、 風に流された炎を受けてメルカトール号のマストが燃え上がる。 「く、前方に気を取られすぎたか! 早くマストを消火しろ!」 メルカトール号の上空に、十騎ほどの竜騎兵が獲物を狙う様に弧を描く。 「敵竜騎兵、我が艦の上方! 再度来ます!」 「くそ、太陽に入られた!」 手をかざし敵を見上げる兵士達の目に、敵群に近づく新たな影が映る。 「何だあれは? 速過ぎる!」 「新手か!」 「いえ、あれは、、、」 ただ一人アンリエッタだけが、あり得ぬ速度で敵に近づく その影が何であるかを理解した。 「あれは、シルフィード!!」 シルフィードは竜騎兵達を牽制するように敵陣を真一文字に 突っ切ると、そのまま急上昇して彼らのさらに上につける。 「ここでいいわ、タバサ」 「がんばってくるのね、ルイズ!」 シルフィードがきゅいきゅいと頭を寄せる。 「ふふ、ありがと、シルフィ。 じゃあ、征って来る!」 ルイズはそのまま眼下の竜騎兵達に向かい逆しまに身を躍らせる。 大きく息を吸い込む。 脳裏に浮かぶのは、幼い頃に寝物語に聞かされた母の武勇伝。 ルイズは目を見開くと、杖を掲げて声を限りに名乗りを上げた。 「我が名は『虚無の魔女』!! 我はルイズ・フランソワーズ・ル・ブラン・ド・ラ・ヴァリエール!! 我が主の敵を打ち倒しに 参 る ! ! 」 「『虚無の魔女』、だと?!」 メルカトール号に再度攻撃を加えようとしていた竜騎兵達が 空からたった一人で降りてくる桃髪の少女を見上げる。 「あれが『魔女』か、『虚無の魔女』か!」 「仕留めろ!」 「討ち取れば恩賞は思いのままだ!」 急降下するルイズに竜騎兵達が追いすがり、一騎が炎を吐きかける。 「なっ?!」 しかしその炎はルイズの髪を焦がす事すらなく<空気の壁>に阻まれた。 (まだだ) 親指を立てるルイズに、上空のタバサがサムアップを返す。 (まだ) 小さく息を吐き、杖を構え呪文を唱える。 眼下にトリステインの戦艦が近づく。 (左手は添えるだけ。) タバサの言葉を思い出す。 「今!」 ルイズを追っていた竜騎兵達が見えない壁に叩きつけられたかの様に 急停止し、騎兵達は振り落とされ、あるいはそのまま宙吊りになる。 「あれは、レビテーション(浮遊)、いや、フライ(飛行)か? しかしあれだけの数を一度に浮かせるとはまた、なんという、、、」 メルカトール号の上で呆然と見上げるアニエスの横で、艦長が叫ぶ。 「撃て撃て、撃ちもらすな! いまの奴らはただの的だ! 撃ちまくって『虚無の魔女』どのをお守りしろ!」 空中に釘付けになった火竜達がメルカトール号からの銃撃や魔法で 次々と射抜かれ、難を逃れた者も巻き添えを恐れて遠くに下がっていく。 メルカトール号の甲板上に慣れぬ浮遊魔法でおっかなびっくりと 降り立ったルイズに、アンリエッタが駆け寄った。 「ルイズ! どうしてここに?」 尋ねるアンリエッタにルイズはきっぱりと告げた。 「姫殿下、ここに居るのは殿下のお友達のルイズでは御座いません。 殿下の僕(しもべ)たる『虚無の魔女』で御座います」 「でも、貴女までが戦場に来ずとも、、!」 「いえ」 ルイズは懐から『始祖の祈祷書』を取り出す。 「殿下より賜りましたこの『虚無』の力、お捧げ致しますのは 此処を置いてより他には御座いません」 「そう、、、そう、なのですね」 アンリエッタは少し悲しげに目を伏せた後、毅然と向き直った。 「ではミス・ヴァリエール。 『虚無』たる貴殿のお力、お借りします」 「はい、殿下」 「いや、お見事な手前でしたな。 しかし噂の『虚無の魔女』殿がこんなに可愛らしいお方だったとは」 メルカトールの艦長が蓄えた髭をなでつつルイズに敬礼する。 「先ほどは有難うございました。 お名前は? ミスタ」 「フェヴィスと申します。 以後お見知り置きを、『虚無の魔女』殿」 「殿下、好機です!」 前方を指差すラ・ラメーの視線をアンリエッタが追う。 「奴らめよほど指揮官に恵まれていないと見える」 「まだ望みはあるようですね、提督。 敵戦列が伸びています! 小回りの利く分こちらが有利! 単独先行している敵艦を挫くのです!」 「はっ!」 ラ・ラメーが頷き、号令をかける。 「後退はここまでだ、各艦回頭! 突出している敵艦に集中砲火をかける!」 † 「何をやっている、一気にラ・ロシェールまで押し込まぬか!」 レコン・キスタ艦隊の中央、戦艦レキシントン号の上で 突然の反撃にクロムウェルはいらいらとした声を上げる。 「艦列が伸びた所を狙われたようですな。 先行している艦を戻せ、戦列を整えろ!」 指示を出すレキシントン号艦長ボーウッドをクロムウェルが睨む。 「なに、なぜ戻す? 一気に突き崩せば良いではないか!」 「閣下、戦はここで終わりではありませぬ。 おそらくは既にトリスタニアから援軍が来ておりましょう。 トリスタニアへ攻め上るにはそれらとも戦わねばなりません。 無理に力押しをして無用の損耗を出すのは上策ではありませぬ。 このままじりじりと押し込めるが宜しいかと」 ばりばりとクロムウェルが歯噛みする。 「くっ、、、 そもそもこれしきの追撃戦で戦列を乱すとは、 前線の、ええい、何と言うのだあの艦は! 艦長を呼んで来い!」 「は、後で調べさせましょう。 ご安心を、閣下。 もはや戦況は決しております」 「む? そ、そうか」 ボーウッドの言葉に多少の平静を取り戻し、席へ座ろうとした クロムウェルの体を爆音と衝撃が揺さぶる。 「な、何だ? 何があった?」 慌てて後方を振り返ると、後衛の艦から火の手が上がっている。 「伏兵か?!」「いえ、それらしき影は何も!」 兵士達が騒然としている間にもじわじわと炎は艦を包み、二度三度と 爆発を繰り返してゆっくり高度を下げていく。 (まさか、まさかこれは) (いや、しかし、、、) ざわめく兵士達の間を縫い、伝令がクロムウェルに走り寄る。 「前線の竜騎兵より報告! 敵旗艦上に、、、『虚無の魔女』が、現れたそうです!」 伝令がその名を口にした刹那、墜落していく艦の巻き添えを恐れ 退避していた隣接艦も、轟音と共に爆炎に包まれる。 「なっ、、、だ、と?」 山腹に落ちていく二隻の艦を見つめ放心するクロムウェルをよそに、 甲板上の兵士たちの間に見る間に恐怖が伝染していく。 「まさか、「アレ」は人の乗る船は襲わないという話じゃ?!」 「馬鹿を言え、他に何がある!」 「し、しかし!」 「『魔女』だ!」 「『虚無の魔女』が出たぞ!!」 「くそう、敵艦上のは囮だ!」「ヤツをこの艦に入れるな!」 「入れるなだと?! 冗談じゃない、どうしろってんだ!!」 「静まれ! 静まらんか馬鹿者ども! 被害を報告! 伝令を出せ! 風石庫に兵を配置しろ!」 混乱する兵士達をいさめようとするボーウッドの後ろで クロムウェルが懐から銃を抜き出す。 ぱんっっ。 乾いた音が響き、ううろたえていた兵の一人が うめき声を上げ胸を押さえて倒れこむ。 「、、、ボーウッド、突撃だ」 クロムウェルが静かに告げる。 「なっ! いえしかし、閣下?!」 「これでも落ち着いて座っておれとぬかすか? 全艦突撃、突撃だ! 我等の敵を根絶やしにせよ! 何をしているボーウッド、 信仰心があるならさっさとやれ!!」 クロムウェルが怒鳴りながら拳をかざし、その指に嵌められた 『アンドバリの指輪』が紫の光を放つ。 ボーウッドの、居並ぶ兵士達の顔から表情が抜け落ちていく。 「見ておれ、『魔女』め、『魔女』め!!」 無言で自分へ敬礼する部下達を見もせず、クロムウェルは 狂気を孕んだ笑いを浮かべ、敵艦列を睨んだ。 † 「ぜ、全滅。 十二騎の竜騎兵が全滅? 三分もたたずにか。 め、眼鏡を掛けたたった一騎の美少女メイジに竜騎兵が十二騎も? ええい、連邦軍の美少女メイジは化け物か。」 「お姉さま、さっきからシルフィの上でうるさいのね!」 ルイズ達が戦うその上空、敵竜騎兵達の間を猛スピードですり抜けながら シルフィードがきゅいきゅいと迷惑げに頭の上を睨む。 「だいたい十二もやっつけてないのね。 シルフィたちまだ四っつしか落っことしてないのね!」 「四騎じゃない。」 タバサが前方の敵を杖で指し示す。 タバサが放ったアイス・ジャベリンを火竜のブレスが一息に溶かす。 すれ違いざまにタバサへとブレスを吹き掛けようと火竜が大きく 息を吸い込んだ、そのわずかな隙に。 シルフィードはあり得ぬ程の急加速で接敵し、180度ロールを行いつつ 敵の上方をすり抜ける。 天地逆の世界、触れ合わんばかりの距離で敵をかすめるその一瞬。 タバサは「眼下」の敵を「見上げ」ながら杖をかざし、ブレスでも防げぬ 回避も出来ぬゼロ距離から、敵兵にアイス・ジャベリンを叩き込む。 火竜から落ちていく騎兵を振り返りもせず、二人は空を翔けぬける。 「これで五騎。」 「なのねっ!!」 † 「くっ、いくらなんでも強引過ぎる!」 じりじりと一進一退を続けていた今までとうって変わり 被害を省みもせずに突進するレコン・キスタ艦隊の猛攻に フェヴィスが声を上げる。 メルカトール号の上からでも、敵陣後方の数艦が突然に 爆発し墜落していく様子は見て取れた。 ラ・ラメーがレコン・キスタ艦隊を睨む。 「奴らめ先ほどのアレからどうも様子がおかしい。 敵竜騎兵も統制を欠いて闇雲に飛び回っておるし 敵艦も砲を避けもせず突っ込んできよる。 しかし、それにしても度が過ぎるというものだ! 殿下、いくらなんでもこれは防ぎようがありませぬぞ!」 「ですが提督!」 アンリエッタが言いかけたその時、砲撃の着弾音と振動がその体を叩いた。 「殿下!!」 吹き飛ばされかけたアンリエッタの体をアニエスが掴んで抱き止める。 「大丈夫でございますか?!」 「お怪我は?!」 「けほっ、わ、私は平気です。 それより、、、」 「右舷外装中破!」 「風石庫被弾! 風石庫被弾!」 「マストに火が移ったぞ、水メイジ!」 「早く火を消せ! 火薬庫に近い!!」 「艦長、風石庫と後尾マストをやられました! まだ浮いては居られましょうが、このままでは追い付かれます!」 「そうか、、、」 報告を受けたフェヴィスがアンリエッタに向き直る。 「殿下、提督、お聞きの通りこの艦はもう持ちません。 退艦のご支度を!」 「そう、そうですか艦長、わかりました。 ルイズ、貴女も退艦の準備を」 「いえ」 「?! ルイズ?」 ルイズがアンリエッタの手を押し留め真っ直ぐに見つめる。 「私はこのフネを降ります。 しかし、姫殿下と一緒には参れません。 殿下、今こそ私の力を使う時なのです。 この『虚無』の力を」 「ルイズ!」 「私があの艦隊を引き止めます。 その為に此処へ来たのです」 「、、、できるの、ですか? そんな事が」 ルイズは『始祖の祈祷書』を腕に抱き、静かに頷く。 「ここではおそらく味方の艦を「巻き込んで」しまいます。 私が敵艦隊との間に入りますので、その間に 殿下は他の艦に移り、全速力で後ろに退いて下さい」 「そんな! 危険すぎます!」 アンリエッタが思わず叫ぶ。 「そういう事なら」 フェヴィスがルイズの横に進みでる。 「私もお供いたしましょう。 艦と命運を共にするのが艦長の務めなのでしょうが、 ここに居るよりは魔女殿と一緒のほうが少しはお役に 立てそうですんでな」 フェヴィスが髭を撫でつつルイズに微笑む。 「ズルいですなあ、艦長」 他の乗員達も杖を掲げルイズの前に進み出る。 「そんな格好の良い役回りを艦長だけに お譲りする訳には参りませんね」 「ふん、困った部下を持ったものだ。 上官を立てるということをまるで知らん」 「そりゃ、上官が上官ですしな!」 「違いない!」 フェヴィスが乗員達と笑いあう。 「という訳です、提督。 姫殿下をお願い致しますぞ」 「心得た、艦長。 魔女殿を頼む」 ラ・ラメーとフェヴィスが互いに敬礼を交わす。 「艦長、、皆さんも、、、」 ルイズは皆を見回した後、アンリエッタへ視線を向ける。 アンリエッタは伏せていた顔を上げた。 「わかりました、ルイズ」 静かに答え、ルイズを見つめ返す。 「命令です。 必ず生きて戻りなさい。 必ずです、ルイズ」 「はい。 仰せのままに、アンリエッタ様」 ルイズは一礼すると艦首へ走り、そのまま空へと身を投げた。 フライ(飛行)の魔法を唱えると、敵艦隊の進路上にある 小高い丘の上を目指す。 「艦長、『虚無』の魔法には長い詠唱が必要です。 それまでどうか時間を稼いでください」 フェヴィスが笑って頷く。 「心得た、ミス・ヴァリエール。 皆、『虚無の魔女』殿は我らが艦を守り戦ってくれた。 今度は我らが彼女を守る番だ。 死なせたとあっては貴族の名折れだ、地獄行きだぞ!」 響く鬨の声と掲げられた杖がそれに応えた。 † 靴の中に入った血ががっぽがっぽと音を立てる。 「あっれ~、ここって前も通ったっけ?」 廊下の先に転がる死体の山を見てシュレディンガーが小首をかしげる。 手にはMP40“シュマイザー”短機関銃を構え、腰にM24型柄付手榴弾を下げ、 背中にいくつもの武器を背負ってよたよたと歩く。 「このフネには前にも来たんだけどなあ、 どこだったっけ、フーセキ庫」 とすっ。 来た道を振り返ったシュレディンガーの胸を長剣が貫く。 「え?」 きょとんとした顔の乗ったその首を、もう一振りの剣がなぎ払う。 「やった、やった!」 「やっと仕留めたぞ!」 「くそう、死ね、死ね! 畜生め!!」 物陰に隠れていた兵士達が一斉に飛び出して、頭をはねられ倒れた シュレディンガーの体を何度も何度も刺突する。 「ひっどいなあー」 のんきな声に恐慌状態だった兵士達の動きが止まる。 そこにあったはずの死体が消え去り、剣が床に突き刺さる。 ゆっくりと声のほうへ目をやると、今まで自分達が殺していた筈の 猫耳の亜人が呆れ顔で立っていた。 「もう死んでるってのにさー」 「ひ、ひいっ?!」 シュレディンガーの手の中でシュマイザーが金切り声を上げ、 反動で照準も定まらないまま辺り一面に無差別な死を撒き散らす。 「ありゃ、弾切れ? んじゃ」 マガジンの空になった銃を投げ捨てると、背負っていた無反動砲を構え いかめしげに眉をきりりと引き上げた。 「パンツァーファウスト、パンツァーファウスト! ファイエルン!!」 降り注ぐ肉片と爆風の中、シュレディンガーが血溜まりから立ち上がる。 「ありゃ、最後の一個だっけ? まーいっか、コレもあるし」 そう言うとシュレディンガーは腰に下げた柄付手榴弾を確認し、 背中のハーネル突撃銃を構えた。 † クロムウェルは瓦礫の中で意識を取り戻した。 体中が軋み上がり、腹腔が焼けるように熱い。 腹から木材が顔を出し、左手はねじれ明後日を向いている。 額の血をぬぐい、ゆっくりと身を起こして辺りを見回す。 「だ、誰か居らぬか、、、」 周りに散らばった兵たちの死体がその声に応える事は無い。 かろうじてレキシントン号は浮かんでいるようだが そこらじゅうから黒煙が上がり、生きている者も見当たらない。 クロムウェルは何が起きたのかを思い出そうとするが 耳鳴りと頭痛がそれを遮る。 だが、何が起きたかは判り切っている。 後方の艦を爆発させ沈めて回っていたあの「アレ」が、 このフネにもやって来たのだ。 足元の船室から銃声と剣戟が響き、叫び声が上がる。 爆発が起こり、船が傾く。 クロムウェルはよたよたとよろけて壁に肩を付き、 そこにあった窓から船外の様子が目に入った。 自軍と敵艦隊とは今だ戦闘が続いているようだった。 その、両陣営の中央。 地上の小高い丘の上に。 「あれは、、あれは、何だ、、、」 黒い球体が、浮いている。 いや、球体なのか? 紫電をまといゆっくりと膨張していくそれは、 光すらも反射せず周囲の景色を飲み込んでいく。 そこを見た時にだけ盲いたかの様に感じる、暗く黒い円。 まるで、世界に空いた「穴」だ。 その「穴」に近づいた竜騎兵が一騎、吸い込まれ消える。 まるで初めから、『虚無』そのものででもあったかのように。 あり得ぬ光景の衝撃にクロムウェルの視線が彷徨い、 その先に少女の姿を見つける。 朦朧とする思考と視界、視認出来る筈もない遥か彼方の丘の上、 しかしクロムウェルはそれが彼女だと即座に認識した。 膨らみ続ける「穴」の下で、杖をかざすその姿を。 もはや全ては終わりだ。 「世界を救う」夢は潰えた。 この命ももう長くは持つまい。 だが。 だが、お前だけは許せるものか。 お前だけは、生かしておけるものか。 お前が「世界」を狂わせた。 クロムウェルの指に嵌められた『アンドバリの指輪』が 静かに輝き、辺りを照らす。 その輝きに応えるように、物言わず転がっていた兵達が 操り人形のようにのろのろと立ち上がる。 クロムウェルは死者の如くに足を引きずりゆっくりと、 死者の群れを引き連れて廃墟と化した艦の中を進んでいく。 大砲の並ぶ砲甲板へと向かって。 † 「性懲りも無くまた来たか、 うっとおしい火(か)トンボどもめ!」 「守れ、魔女殿を守れ!」 「弾幕を張れ、近づけるな!」 「トーチカが崩れそうだ! 錬金と固定化をかけ直せ!!」 「砲撃、六時から来るぞ! 風だ、風で逸らせ!!」 竜騎兵が頭上をかすめ、砲の着弾で土柱が上がる。 自分を守り戦うフェヴィス達の声が遠く聞こえる。 初めて虚無の魔法を使った、あの時の様な絶望への陶酔はなく。 ルイズの心は驚くほどに澄み切っていた。 『始祖の祈祷書』はあるが、心を繋げる為の『水のルビー』は無い。 それでもあの時のたった一度きりの詠唱で、そのスペルは ルイズの頭の中に刻み込まれていた。 虚無の呪文の初歩の初歩の初歩。 『バニッシュメント(追放)』 『虚無の地平』への門が、ルイズの頭上で静かに開いていく。 ―――エオルー・スーヌ・フィル・ヤルンサクサ――― 世界が、たった一人の少女に怯えている。 黄金律が、悲鳴を上げて捻じ曲がる。 ルイズの体があの時のように透き通っていく。 違う世界の自分に出会った、あの時のように。 世界が、あまりに膨大な虚無の力を拒んでいる。 世界に拒まれ、運命に追い立てられたものが 世界を否定し、運命を踏破するための、力。 (姫さま、最後の最後にウソを吐いて御免なさい。 でも、わかってくれるよね。 さよなら、アンリエッタ) これこそが、『虚無』の力。 ―――オス・スーヌウリュ・ル・ラド――― ルイズの命が、細く細くほどけてゆく。 ルイズの存在が、細く細くほどけてゆく。 ギーシュに語った虚無の力の根源。 通常の魔法とは異なる力を根源とする 虚無の魔法の禁忌たる由縁。 単純な事だ。 火の系統のメイジは火の力を操る。 水の系統のメイジは水の力を操る。 風は風を。 土は土を。 ならば。 虚無のメイジは虚無を操る。 虚無とはこの世に在らぬ事。 虚無とは存在しえぬ事。 虚無の力の根源は、術者が「存在する事」そのものなのだ。 己が「ここ」に存在する事実それ自体をすり減らし、 削り取り、そして力へと変換する。 魔術の理法を外れた外道の法理。 (ワルド、あなたは今天国に居るの? それとも地獄? もう一度会って文句の一つも言いたかったけれど、 私はどっちにも行けそうに無いや) これこそが、『虚無』の理(ことわり)。 ―――ベオーズス・ユル・スヴュエル・カノ・オシュラ――― 今ならワルドの気持ちがわかる。 彼は「世界」を掴むため、力を欲したのだ。 ありのままの自分が居ても良い世界。 自分が存在する事を許される世界。 かつてルイズも力を欲した。 それは切望であり、熱望であり、渇望だった。 だがその力を手にした今、理解する。 私が本当に欲しかったのは力そのものではなく、 自分がここにいても良い理由、いても良い世界だったのだと。 その為に、自分がこの世界に在る為に力が必要だったのだ。 そして、今の自分にはそれがある。 皆の笑顔を思い返す。 自分を受け入れてくれる、小さな、けれど暖かな「世界」。 運命を変えられるなんて思わない。 世界を救えるなんて思わない。 でも。 私のこの小さな「世界」だけは。 この「世界」だけは! 髪の毛も 指も 思い出も 骨も。 私の全てをくれてやる そのかわり。 私の大切なものを これ以上何一つだってやるもんか。 運命(あんた)なんかに もう一かけらだってやるもんか!! ルイズの体が虚無と解け合う。 ルイズの存在そのものが、虚無となっていく。 (シュレディンガー、どこかで見てる? バカなご主人様で御免ね) そしてこれこそが、『虚無』の担い手。 ―――ジェラ・イサ・ウンジュー・ハガル・ベオークン・イル ――― ルイズの頭上に空いた穴は既に100メイルを優に超え、 有象無象の区別無く、全てを飲み込み始めていた。 天頂に輝く太陽を二つの月がゆっくりと覆い隠す。 「食」が、始まろうとしていた。 世界は光を失ってゆき、虚無へと通じるその穴の輪郭が 徐々に滲み、ゆがみ、ぼやけて爆発的に膨れ上がっていく。 円の淵からあふれ出した虚無が、狂ったように空を覆っていく。 『虚無』が、運命を、世界を、侵食し始めた。 。。 ゚○゚ 「やったね、ルイズ」 幾筋もの黒煙を立ち上らせるレキシントン号のマストの上。 シュレディンガーは迫り来る虚無への穴を満足げに見つめ、 優しく微笑みつぶやいた。 (おめでとう、ボクのご主人様) † 「あれが、『虚無』の力、、、」 ラ・ロシェール駐留艦隊の中央、戦艦イーグル号の上。 アンリエッタは敵艦隊を飲み込んでいくその異形の力を 固唾を呑んで見守り、ただ祈った。 (さっきの声は、まさか、、、? ルイズ、ルイズ、無事でいて! 始祖ブリミルよ、その末裔に何とぞご加護を、、、) † 「、、、冗談でしょ」 ラ・ロシェール領主邸の庭先。 敵も味方ももはや戦っているものなど無く、遠くに見える その信じがたい光景にただ目を奪われている。 世界の終わりのようなその光景に身を震わせるシエスタを キュルケは優しく抱き寄せる。 (ふふ、なんて馬鹿馬鹿しい力なんだこと。 いいぞ、やっちゃえ、泣き虫ルイズ) † 「制御不能! 制御不能!!」 レコン・キスタの戦艦同士が空中で衝突し、しかし 墜落する事も許されぬまま穴の中へと飲み込まれていく。 魔法も使えぬ一般兵が叫び声を上げ船から身を投げ出すが、 その体は宙に浮き、ゆっくりと虚無の穴へと引きずられていく。 もやのように漂い混じる虚無の境界面が、意思在るものの様に 兵士の体を包み込み、その悲鳴ごととぷりと飲み込む。 「あの下にいるはずだ! 『魔女』だ、『魔女』を狙え!」 地上に向かって何発もの砲弾が打ち出されるが、 その全てが虚無の穴の引力によって軌道を逸らされ、 あるいは穴の中に吸い込まれる。 「ちくしょう、魔女め、魔女め! 『虚無の魔女』め!! お前は、お前は一体なんなんだ!!」 † (これが、あのお嬢ちゃんの魔法だってのか) 虚無の穴の真下。 砲撃に吹き飛ばされて地面に倒れたまま、 フェヴィスは空を覆う虚無の力を見上げていた。 部下達はすべて倒れ、自分ももう長くは持つまい。 だが、彼は笑っていた。 (生きながらえて祖国の滅ぶ姿を見るよりはと思っていたが、 なんてこった。 ははは、神かけて、なんてこった! こんな死にぞこないの命を懸けた甲斐があったってもんだ) 満足げな笑みを浮かべると、フェヴィスは ゆっくりとその目を閉じた。 † 「そうだ、世界を救うのだ」 広がりゆく虚無の力に捕らわれ傾いたレキシントン号、砲甲板。 物言わずのそのそと動き回る死人たちを率いて、 クロムウェルは火薬と砲弾をつめた砲を地上に向ける。 熱に焼かれて白く濁ったその目は、見えるはずの無い 桃髪の少女の姿だけをはっきりと捉え、ねじれ曲がって 動くはずの無いその腕で、狙いを定めた砲を支える。 「虚無よ、お前は『ここ』に在ってはならぬのだ」 レキシントン号が虚無の穴にゆっくりと飲まれ終えるその刹那。 轟音が響き、一発の砲弾が地上へ向けて放たれる。 その砲弾は虚無の穴の引力とこの世界の重力とに導かれ、 あり得ぬ軌道を描いて地面に到達した。 そして。 砲弾は土柱を高々と立ち上げて、 杖を掲げた少女の体をぼろきれの様に空に放り投げた。 。。 ゚○゚ 前ページ次ページ確率世界のヴァリエール
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[名前]ルイズ・フランソワーズ・ル・ブラン・ド・ラ・ヴァリエール [出展]ゼロの使い魔 [声優]釘宮理恵(参加者内ではシャナが同じ声優) [性別]女 [年齢]16 [一人称]わたし [二人称]呼び捨て、あんた トリステイン魔法学院の女子寮に住む2年生。ヴァリエール公爵家の三女である。 両親、2人の姉ともに優れた魔法使いでありながら、物語序盤ではルイズ自身はまったく魔法が使えないという特徴を持っていた。 物語が進み、彼女自身が持つ魔法の系統が明らかになると使えるようになる。 最初は自分が召喚した平賀才人を平民だからと犬扱いしていたが、何度も助けられたりしているうちに1人前の人間扱いしていくと共に彼に惹かれていく。 [能力] 魔法。ただし序盤はどんな魔法を使っても必ず失敗してしまう。失敗とは、魔法が爆発すること。 [性格] 良くいえば誇り高く、悪くいえば負けず嫌いの意地っ張り。 原作序盤では魔法が使えないことをコンプレックスとしており、その反動からか勉学に励む努力家である。 典型的なツンデレであり、ツンデレの代表格でもある。 以下、多ジャンルバトルロワイアルにおけるネタバレを含む +開示する ルイズ・フランソワーズ・ル・ブラン・ド・ラ・ヴァリエールの本ロワにおける動向 初登場話 008 私がトーキョーに送ってあげる 登場話数 1 スタンス 対主催 死亡話 008 私がトーキョーに送ってあげる キャラとの関係 キャラ名 状態 呼び方 二人称 関係・認識 初遭遇話 平賀才人 仲間 サイト アンタ 使い魔 未遭遇 タバサ 中立or仲間 タバサ アンタ 級友 未遭遇 後藤 敵対 アンタ 殺害される 008 私がトーキョーに送ってあげる 踏破地域 1 2 3 4 5 6 7 8 9 10 A ■ ■ ■ ■ ■ ■ ■ ■ ■ ■ B ■ ■ ■ ■ ■ ■ ■ ■ ■ ■ C ■ ■ ■ ■ ■ ■ ■ ■ ■ ■ D ■ ■ ■ ■ ■ ■ ■ ■ ■ ■ E ■ ■ ■ ■ ■ ■ ■ ■ ■ ■ F ■ ■ ■ ■ ■ ■ ■ ■ ■ □ G ■ ■ ■ ■ ■ ■ ■ ■ ■ ■ H ■ ■ ■ ■ ■ ■ ■ ■ ■ ■ I ■ ■ ■ ■ ■ ■ ■ ■ ■ ■ J ■ ■ ■ ■ ■ ■ ■ ■ ■ ■ F-10地図にない民家の前
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人物名鑑:ルイズ・フランソワーズ・ル・ブラン・ド・ラ・ヴァリエール ゲーム内におけるルイズ 旅先で出くわすユニフォーム姿のピンク髪のツンデレ少女。ユニフォーム違いで3人出てくるが、全員名前の似た別人。 コルビー・ルイス 一般客として船に乗っていた広島東洋カープのユニフォームを着たルイズ(*1)。変態発言をするストーカーに付きまとわれている(*2)。 フレッド・ルイス パサデナの町でショップ店員をしているルイズ。カープのユニフォームを着ている。 ランディー・ルイーズ ポートランドでショップ店員をしているルイズ。東北楽天ゴールデンイーグルスのユニフォームを着ている。 原作におけるルイズ CV:釘宮理恵 「ゼロの使い魔」の主人公。トリステイン王国屈指の名門貴族・ヴァリエール公爵家の三女で座学は優秀な優等生。だが魔法が使えなかった(*3)ため「「ゼロ」のルイズ」と渾名されている。 コルビーがカープに入団し、活躍していた2008年頃はアニメ「ゼロの使い魔」第2期のほとぼりが冷めない中でアニメ第3期が始まった頃であり、プロ野球関連の掲示板にはコルビーの活躍をルイズに見立てて褒めたたえる「ルイスコピペ」があちこちで貼られていた。